究極のカルボナーラの秘密! ‥‥のその前に。Vol.2

越川さんはテレビや雑誌でも度々見かける料理人。
料理への拘り、素材への拘り。料理人として辿ってきた足跡‥‥
まずは、秘密の「裏側」の話から。

4.18, 2018

写真家(Leica TL2):松井 文
  • food&liquor
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さて、前回に引き続き、越川さんとの対談を掲載致します。あの究極のカルボナーラに至るまでの軌跡をご紹介します。

 

「でも‥‥自分が有名じゃないからしょうがないなって。」

――ずっとここでやられてますよね? 外苑前っていう場所で、駅から近くはないじゃないですか。そういうのって何か特別な理由はありますか?

『ひとつは‥貸してくれないですよね。いろんな場所の物件行ったんだけど相手にしてくれない。味とか拘りとかどうでもいいっていうか、こんな誰だかわからない大した貯金も無い個人が借りるのと、ちょっと大きな企業が借りるのとでは、倍ぐらい貸し手が違うんですよ。外苑前の駅前パッとみれば大きい会社の店ばかり。個人で一等地は難しいですよ。超有名ですっごい実力を持ったシェフは別かもしれないけど‥‥なかなかいないですよね。』

初めに直面したのは極めて現実的な問題。
しかしそのことが廻り回って大きな「出会い」を生むことになります。

 

『あと、神宮前に拘ったのは「いいなー」という店が(今はなくなっちゃったけど)あったのも。ここはパッと決まっちゃいましたね。7月に見て9月には借りる感じで。11月までまるまる準備してオープンしたんです。』

 

――フィーリングみたいなものがあったんでしょうか?

 

『入った瞬間になんとなく、「あ、ここでやるんだろうな」って。内装とかそういうんじゃなくて、自分が料理しているイメージが‥‥。それまで50件くらい行って首を傾げてたけど、即決でしたね。』

 

――運命の人に巡り合う瞬間みたいですね(笑)

 

『たぶん‥‥見つからなすぎて(笑)‥‥っていうのも正直ありますよ。すっごい準備して契約直前でダメになっちゃった物件もありますし。家賃30万でって話だったんで、
「31万でも2万でもいいですから(貸してください)」って言ったら
「いやおっきい会社が50万で借りるって言うんで、ゴメンナサイね」って。
そんなの3回くらいあったんですよ。』

 

――やはり個人に冷たい。さらにこんなことまで。

 

『ある物件に関してはほとんど決まってて。業者もスタッフも決まってて。契約書の印鑑だけ押してなくて。まあ大丈夫だろと思って‥‥信頼してたんで。そしたら直前でゴメンナサイって言われて。
「飲食店はダメなの」って。うそだろ、そりゃないだろって思ったんですけど、
「ダメなものはダメ」って言われたんで‥‥ガッカリしましたね。
そしたら、ここ(今の店)がオープンしたと同時に、その物件は他の(飲食)店がやってたんですよ』

 

――そうなんですか…

 

『図面なんかも設計士に僕がお金払ってお願いして。水道の配管とかキッチンとか、たぶんそのまま使って(笑)。すっごい有名な、予約が取れないようなシェフでしたよ。でも‥‥自分が有名じゃないからしょうがないなって。』

 

――そのお金は返してもらえなかったんですか?

 

『請求しなかったですよ。なんか女々しいでしょ』

 

内装は拘りに拘った

――内装は全部ご自身で考えられたんですか?

 

『最初あまりにも汚すぎたんで‥‥居抜きで買ったんだけど全部壊しました。一から全部作り直して。周りには、個人でやってるとは思われてなかったですね。「スポンサーいるんでしょ?」みたいな(笑)。』

 

――ふつうにそのまま使うよりも費用掛かりましたか?

 

『費用もかかったし、時間も三ヶ月くらい掛かっちゃったし。ふつうは居抜きでうまいところ見っけて、内装だけちょっと変えて‥‥ それが個人では普通だと思うんですけど‥‥なんか、やっちゃったんですよね(笑)』

 

料理も素材のさらに素材から拘る方です。何かを感じた場所だけに、妥協はしません。店内の色使い、絵画とも呼べる壁の装飾‥‥

日常から切り離された、でも何時間でもいたくなるような、異国の空間に仕上がっています

――画家さんに描いて頂いたと以前お伺いしましたが。

 

『色はとにかく拘って。この色を出すのがすごい難しくて。ローマにある店は‥まあこういう雰囲気で、それに合わせた感じです。そのひと(画家)はイタリアに詳しいわけじゃなかったんで、最初赤くなっちゃったので、「塗りなおしましょう」って‥今度はピンク色になっちゃって(笑)何回か塗りなおして‥‥そしたらあまりにも綺麗になっちゃったんで、(質感のために)ちょっと剥がしたり、ボコボコのところはそのままにしてもらったり。でも上手かったんで結局イメージどおりになりました。』

 

――その方(画家)はもともとお知り合いだったんですか?

 

『内装業者のひとの奥様がもともと絵描きさんで。アトリエに行った時に感じるものがあったんです。それで‥‥最初はこういう絵も描いてもらう予定もなくて、「ちょっとだけ描いてください。ちょっとだけですよ。ごちゃごちゃしたら嫌なんで」って。ダヴィンチとかミケランジェロが好きなんですよーって言ったら、わざわざその本を借りてこられて「こういう絵でいいですか?」 「え、こんな絵描けるんですか!?」ってなりました(笑)』

 

その結果は写真の通り。描けるならば「ちょっとだけ」ではなく、一面に‥‥という話になったようです。

 

――すごいですよね。素晴らしいです。

 

『天才だと思って。下書き無しで壁に直接描き始めたんですよ。』

 

わたしの持論ですが‥‥
「諦めなければ夢は叶うかもしれないが、一人で叶えるひとはいない」いろんな出会いがあり、ひとの力を借りて、この店もできたんだ、と。諦めず立ち向かい続ける力が、出会いを引き寄せるのかもしれません。この後それを裏付けるような話をしてくれました。

 

そしていよいよ、日本一のカルボナーラの秘密へ‥‥

――以前雑誌で卵に対してのこだわりを拝見したのですが、その方(生産者)との出会いについて聞かせてください。

 

『カルボナーラに合う卵を探してたんですよ。そしたら結構見つかって。これも良いしこれもこれもこれも‥‥どれでやっても上手くいくんですよ。卵に合わせて材料変えたりして、ローマで食べた味も再現できて、「オレ天才じゃん」‥‥って(笑)』

 

――なるほど

 

でもそれだけだったら今のカルボナーラは生まれていません。その後何があったのか聞いてみました。

 

『親から「実家の近くにすごい卵あるの知らない?」って言われて。で、買って来てもらって、作ったら‥‥失敗しちゃったんです。生で食べろっていうのはちょっと聞いてたんですけど。なんだこの卵? ってなって‥‥気になって、直接行ってみたんですよ。そしたらすっごい頑固なオヤジがいて。』

 

とても餌に拘っていることが生産者から聞けて、でも中までは見せてもらえなかったといいます。

 

『改めて作って、でも何度も失敗して。他の食材が出てこないくらい卵が強いんですよ。これ面白いな~と思って。これを使いこなせるようになったら』

 

サラッとそう言いましたが、わたしは驚きました。

他の卵でうまくいっているのに、「上手くいかない、この卵はダメ」とは考えず、「これ面白いな、使いこなせるようになったら」と考えが湧くところ。飽くなき探究心。天才と呼ばれる人間が持っている「特別な何か」とは、そういうものなのかもしれません。

 

ところが‥‥

 

『次に行ったときに「東京でイタリア料理 のシェフやってるんですけど、配送ってやってもらえますか?」って聞いてみたら「いいよー」って言ってくれて。「どうやって作るの?」って聞かれました。カルボナーラよく知らないっていうことだったんで、「こうやってこうやって‥‥」って説明してたら「おめえふざけんな!!」とか言われて(笑)。

「この卵に火をかける? 他の卵使えよ、何考えてんだ」って。「二度と来るな」とまで(笑) ふざけんなジジイ誰が来るか(笑)って思ったんですけど‥‥ずっと気になってたんですよ。』

 

『どうしても気になって、でも行くのアレだったんで親に買って来てもらって‥‥何度も作ってくうちに「生で食べろ」っていう意味がだんだん分かってきて‥‥あ、こういうことか。こういうことか、なるほどね‥‥って。』

『三年くらい経って直接行ってみたんですけど、向こうは覚えていなかったんですよ。実家帰るたびに顔出してたら「よく来るね」って言われて(笑)』

『卵の状態も夏と冬で違うんですよ。チーズとかオリーブオイルの量とかも変えなきゃいけない。例えば夏は暑いから鶏も水を飲む量が増えて、それでちょっとだけ薄くなるとか。でも向こう(生産者)も職人なんで、餌の配合を変えたりして、だから大きくは変わらないんですけど。(別の養鶏場の)放し飼いの鶏を使っていたころは全く違いましたね。割るたび割るたび違う。放し飼いなんで、それぞれ何でも食べちゃうから』

 

――今使っている卵、これだ!っていう確信はあったんでしょうか?

 

『「おいしい!」っていうよりも「何ですかこれ」っていう。変な話‥‥ローマで食べたことあるカルボナーラを作るのは、そこで食べられるわけだから。食べたことのないカルボナーラを作りたい。ちょっと自己満足になっちゃうかもしれないけど。

でもその卵は本当においしいんで。「親」ですよね。その生産者が親で鶏が子供。毎日ごはんと味噌汁だけあげて、「ある程度育てばいい」とは思わない。親ってそうじゃないですか。それと同じで、30種類以上のえさを毎回配合を変えながらあげているんで。こんなに大事に育てられた鶏の卵。そういう卵を使いたいと思いました。使いこなすまで時間掛かるなと思ったんですけど。』

 

この拘り、これが卵との出会い。しかしまだまだ越えなければならない「条件」はありました。

 

『当時は雇われだったんで、1個200円する卵なんてオーナーが使わせてくれないんですよ。「卵に200円、なんで? 他のでいいでしょ」って。しかも(まだ使いこなせていなくて)他ので作ったほうがおいしかった、そのときは。でもそのうち「独立したら使わせてあげるよ」って言ってくれました。』

 

そう、独立はすべて、自分のやりたい料理、日本一のカルボナーラを目指すため。

 

『でも独立してすぐには使わなかったんです。しばらく様子見てて。で、半年くらいしたら使ってみて‥‥で、一気に。「拘りのカルボナーラの店」とか「日本一の卵を使った」とか「究極のカルボナーラ」とか謳っていったら、面白いように雑誌とかテレビの取材とか殺到して‥‥ほとんど断ったんですけど何件かには出ました。今はあんまり無いですけど、それでも(取材)来るときはカルボナーラですね。』

 

最後に

その後、越川さんはこう続けました。

 

『なにか一個だけ必殺技があったほうがいい。なにか起業するとか、目指すんだったら。サッカーでも、ものすごく足が速いとか、キック力があるとか、一個武器があるだけでプロになるきっかけになる。オールマイティじゃなくていい。あとはそれを追求し続けることですかね。それで終わりじゃなくて。僕もまだ卵、新しいものがあればって探し続けてますし。』

 

そして店については。

 

『職人同士で作った店。卵と、内装と、店と。』

 

ひとの手で作られたものだから、こんなに居心地がいいんですね。

 


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▽【外苑前】写真展
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  • 松井 文写真家(Leica TL2)

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