東東京新酒場 Vol.0

下町の新たな名物酒場を探すべく、今宵も飲み歩く

酒場巡りをこよなく愛する東東京在住のライター/エディターが、下町の新たなアイコンになるであろうニュー・ウェイブ酒場を紹介していく飲み歩きコラム「東東京新酒場」。

5.2, 2018

ライター/エディター:宮内 健
  • food&liquor
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墨田区に住みはじめて、5年になる。

 

長らく世田谷界隈に住んでいた自分が、ほとんど縁のなかった東東京エリアに出入りするようになったきっかけは、立石で酒場を飲み歩く楽しさを知ったから。「宇ち多”」や「江戸っ子」といった老舗の、長い月日をかけて醸成された味、店それぞれのマナー、そして時間と記憶が堆積した佇まいを味わいながら飲む酒の旨さ。それは、その時々の流行に左右されては街並みが変化しがちな東京の西側にいてはなかなか気付けない、特別な感覚だった。

立石を皮切りに、浅草・北千住・住吉・亀戸・小岩・曳舟・門前仲町・浅草橋……と、東側のいろんな町に出向いては、町と一緒に歴史を重ねてきた古い居酒屋を好んで飲み歩いた。下町の酒場巡りが趣味になったのと前後して、自分自身も東東京の方に暮らしてみたいと思うようになった。物件を探しているうちに錦糸町に出物を見つけ、勢いで引っ越してみたのがちょうど5年前のことだ。

 

東東京に引っ越してからも酒場巡りは相変わらず続けていて、むしろこの界隈をぶらぶらと散歩するたびに、激シブな店構えの飲み屋や、地元の人でもあまり知らないような穴場な店に出くわしたりと、気になる酒場は未だ増え続ける一方だ。

しかし、生活しはじめて気づいた残念な点もある。まず、東東京にはいい音楽を聴きながら酒を飲んでくつろげる店が圧倒的に少ない。立ち呑みや居酒屋で飲んだ後に、帰り道にバーやクラブ(カフェでもいい)で好きな音楽に浸りながらゆったりと一杯飲みたい、というような欲求を叶えてくれる店には出会えていない。

 

もう一つは、町や地域が持つ歴史とかムードを受け継ぎながら、そこに新しい風を吹き込んでくれるような若い世代の酒場がもっとたくさんあってもいいんじゃないか? という点。たとえば立石の商店街にあるおでん屋から派生した「二毛作」や「おでん丸忠」などは、昔から愛され続ける味を守りながらも、酒や食のトレンドも柔軟に取り入れ融合させているし、何より店自体が、立石という町が時間をかけて育んできたコミュニティの魅力を次の世代へと伝える窓口としても機能している。こんな酒場が下町のあちこちにあったらいいのに……と思うが、他の町ではなかなかお目にかかれないのが現状だ。

ただ、そんな中でも、新しい息吹を感じさせる店はいくつか生まれはじめている。そこで、これから下町の新たなアイコンになるであろう「東東京新酒場」を紹介していこうというのが、この連載だ。

酒場巡りの個人的な備忘録として、いつもインスタに写真を投稿しているのだが、「それをヴァージョンアップさせたような感じで」と、URBAN TUBE編集部が言ってくれたので、そのお言葉に甘えて乗っかって……iPhoneやデジカメで手撮りした写真と簡単な文章のみの酒場メモ的なユルい内容になると思いますが、みなさま長い目でお読みいただければ。

 

ということで。次回Vol.1は、活版印刷の印刷所が夜は立ち呑み酒場に変身する、森下「Rhythm and Betterpress」を紹介します。

Profile

  • 宮内 健ライター/エディター

    音楽誌『bounce』『ramblin’』編集長や、東京スカパラダイスオーケストラ、EGO-WRAPPIN’の書籍編集を歴任。現在は、『TAP the POP』『ミュージック・マガジン』をはじめとする音楽関連の編集・執筆のみならず、『dancyu』『メシ通』などで食や酒場に関する記事も多く執筆している。