Hey!凡な日々 Vol.7

高3、夏。友だちのお父さんの葬式会場へと、チャリを走らせた。いつまでもガキのままでいたいと僕達は強く願った。

3.15, 2019

ハガキ職人:落合のダッチワイフ
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最近よく思い出すことがある。何故だかは分からない。
なんとなくあの日のことが書きたくなったので、皆様には少しばかり付き合っていただくことになる。

高校3年生の時のこと。季節は夏。同じクラスのY君の休みが何日か続いた。

 

朝のホームルームの時間。先生が「Y君のお父さんが亡くなった」と言った。教室の空気がずっしりとした。誰がどんな顔をしているのか周囲を見渡してみると、普段から僕が「頭が悪い」と決めつけている人達が、揃ってひどく落ち込み過ぎたような表情をしていたのが印象的だった。
先生は続けて、「お葬式に行きたい人は場所を教えるので、聞きに来てください。」と言って、何事もなかったかのように次の話題に移っていった。いつもの毎日に戻そうとしてくれた先生には感謝するが、グラデーションになっていない。黒から薄い白に変わっても、さっきまでの黒がより明確な黒となって頭に思い浮かぶだけのことだった。

 

数日後の真っ昼間。とてつもない炎天下の中、僕達は自転車を漕いでいた。平日だったか、授業はどうだったか、あまり覚えていない。地面が乾いていたことと、制服をきて学校の駐輪場から葬式会場に向かったことは覚えている。
僕はこの時、ものすごくテンションが上がっていた。なんなら前日から少し楽しみにしていたくらいだった。

 

理由は単純明快。クラスで気の合う男友達10数人と、共にチャリを漕げることなど滅多にないからだ。放課後であれば多少そんな機会があるかもしれないが、気の知れた友人達と真っ昼間にチャリでどこかへ向かうなんてことは、この先ないと確信していた。
僕は葬式会場の場所を敢えて把握しなかった。目的地を知ることで、この時間がいつ終わってしまうのかと逆算出来てしまうことが嫌だったからだ。映画を観る前に、上映時間をなるべく知らないようにするのと同じ理由である。

 

僕達、自転車族は横に大きく広がったり、時には縦に長い列を作ったりと様々な変形を繰り返しながら目的地へと向かった。

 

「やべえ、最強の軍隊みてえだなあ。」と僕は思ったし、確か口に出した。

 

僕は分かっていた。皆、楽しさを押し殺していることを。楽しそうな顔をすると不謹慎な気がするからだ。ホームルームでY君のお父さんの話を聞いたときも、自転車を漕いでいる時も、みんな大人みたいな顔をしていて、とても悲しかった。親しい人の空気を読んでいる表情というのはあまり見たくないものである。
目的地まではしゃいでしまうと、目的地に着いてからの行為とギャップが生まれてしまう。皆、チャリを爆走させながらそれぞれが「これから悼む人」を演じていた。自転車の速度だけが青春みたいでそれ以外は嘘だった。テストの話とか、とにかく学校の話をして、できるだけ笑いが生まれないように、盛り上がらないようにしながら僕等は目的地へと向かった。

 

目の前の奴が道の幅を満遍なく使って、右に左とジグザグに走行した。
やっぱりお前もか!?いけるの?この辛気臭い雰囲気に風穴あけれんの?と胸が躍ったのも束の間、すぐに直走してしまった。

 

先頭の奴がそろそろ近いと言った。

 

残念でならない。こんな嘘くさいことすんのやめようぜと大声で言えたなら。
みんなの口数が徐々に減ってきた頃、真っ黒な雰囲気が全体を包み込んでいた。

 

「ME、ド、かね?」

 

先頭のC君が何か言っている。

 

「ME、ドキ、かね?」

 

「なに〜〜〜!?」
片手でウチワを仰ぎながら先頭を走る、クラス1の馬鹿で有名なC君に大声で聞いた。

 

「MEGAドンキ行かね???」

 

一筋の光どころじゃない。ハイビームだ。眩しすぎる。葬式の前にドンキホーテに行くバカがどこにいる。僕の辞書には、葬式の対義語はドンキホーテだとある。人の命はプライスレスだと言われているのを知らないのか。激安の殿堂にどんな顔をして行けばいい。しかもMEGAって。

 

俺は簡単に乗ると軽薄な奴だと思われるので、牽制球として「なんでドンキ行くの?」と彼に尋ねた。誰よりもこの空気感を呪っていたのに、最終的には自分の立ち位置とか周りの目を気にしてしまう自分をひどく嫌に思った。

 

彼は「近くにあんだよ」と言った。

 

「夏だしな。」

 

と僕は返した。最高だ。清々しい。
全員が自然な感じを装って、じゃあ行こうかあ的な態度をとったが、僕は見た。みんなが笑っているのを。MEGAドンキへ颯爽とチャリを漕いだ。爆漕ぎ。

 

MEGAドンキでプラスチックのカラーボールを買おうか僕はずっと悩んでいた。悩んだ結果「葬式だしやめっか。」と思い、やめた。
その判断は正しかったと今でも思っている。僕らのチャリが止まっているのを見かけたクラスの女子もMEGAドンキにやってきてとても楽しかった。紛れもない青春だった。

 

そして、僕らは葬式に向かった。

 

会場につくと、流石にみんな緊張していた。僕は葬式を経験している回数が一般の高校生より多かったので「これこれ〜」みたいな顔をしていたのだが、式場のトイレで自分が早口で喋っていることに気がついて、緊張を自覚した。
お焼香をあげる時、横一列になった家族の顔が全く同じで笑いそうになった。しっかりと引き継いでることに集中すればする程笑いそうになったので、頑張って堪えた。
でも、とても悲しかった。僕はお焼香をあげたあと、トイレにダッシュして泣いた。当たり前だ。

 

式が終わってからY君が僕らの元にきてくれた。Y君が気の毒に思えた僕は、
「俺もお父さん失ってるから、少しは気持ちがわかるよ。」
と伝えると、Y君が少し引いた顔をしていたのを今思い出してイライラしてきた。
「きてくれてありがとう。」
Y君は涙目で僕らにお礼を言った。

 

「Y!!これ何時に終わるの?俺らと夜、焼肉食い行こ!!元気出せよ!!」
とクラス1のバカは言った。

 

僕は塾があったのでそこで解散したが、後日Yも含めみんなで焼肉に行ったと聞いた。

 


 

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Profile

  • 落合のダッチワイフハガキ職人

    「お笑い芸人になりたい」と思い、新卒2ヶ月で勤めていた銀行を退社。
    プールサイドというコンビ名で活動中。
    毎週日曜21時からインターネットラジオ「プールサイドの25Mラジオ」を生放送中。趣味はラジオ投稿。
    現在はコンビニでバイトをしながら。日々の生活を楽しんでいる。