Hey!凡な日々Vol.10

僕は回転寿司を食べることになっているらしい。
今夜、知らない誰かと。

4.30, 2019

ハガキ職人:落合のダッチワイフ
  • essay
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「締め切りが近い。」といったような文章をSNSやコラムに書く人は、「締め切り」に追われている自分を周囲に向けてアピールしたいだけだ。という風に思っていた訳だが、実際のところは本当にその通りだと思う。何故なら、実際に僕は今締め切りに追われていて、そんな自分がカッコよくて仕方がないように思えるからである。のであれば、これはコラムに書かなくてはならない。書かなければ、締め切りに追われている様を皆さんにお見せすることが出来ないからである。が、「締め切りが近い。」とストレートに書くことに若干の照れを感じるので、このように「締め切りアピール」をしている人をクサすようなテイを取りつつ、シレっと自分もまた締め切りに追われていることをアピールさせて頂いた次第である。

 

先日、今までに自分が書いてきたコラムをなんとなく見返してみたところ、「URBAN TUBE」のコンセプトとズレているのではないかと少し不安になった。が、僕はファッション、街、等に関する教養を一切持ち合わせていないのでどうしようもない。このコラムのタイトルの「Hey!凡な日々」には、特別なことではなく、当たり前に流れる毎日を楽しもうぜ!!という意味を込めたつもりである。よって、僕は生活に付随したものをここでは書く。

 

毎回のようにコラムの冒頭では、これから書く内容と「URBAN TUBE」が持つコンセプトの関連性を言い訳がましく述べるのだが、もう辞めにしようかと思っている。誰に断りを入れているんだって話だし、単純に文字数が勿体無い。

 

「生活とはファッションである。」

 

それはどうゆう意味ですか?と聞かれれば、僕は沈黙を貫くだろう。そんなことはむしろこっちが聞きたいくらいである。が、「生活」や「ライフスタイル」といったものと「ファッション」ってのは切っても切れない関係のような気がすることは確かだ。とにもかくにも、かくかくしかじか、うんぬんかんぬん、必要として頂いている限り、僕は生活のことをここで書き続けようと思う。

 

今回は、日々生活を送っている中で、思わず「Hey!」と叫びたくなった時のことを書こうと思う。

 

 

忍び寄る魔の手
バイトの休憩中。外に出てタバコを吸っていた。その日は晴れていて、僕の横を通り過ぎていくバスを見て、なんだかいい日だと思えた。こんな素晴らしい今日のことを歌っている曲を聞こうと、AppleMusicを開き曲を選んでいると誰かからLINEが来た。開いてみると、LINEからのLINEであった。つまり母体から僕に向けた連絡である。LINEが僕に何の用だろうと中を覗くと以下の様なメッセージが来た。

調べてみると、僕のLINEのIDとパスワードを誰かがドンピシャで当て、入り込もうとしている所を、LINEの母体、つまりLINEマザーが止めてくれたということらしい。身に覚えのない端末からのログインだったため、マザーの指示通り、急いで僕はパスワードを変えた。気持ちが悪い感じはしたが、これで一安心かと思い、両耳から流れる音楽に耳を傾け、風景に溶け込んでいくタバコの煙を眺めていた。

 

帰宅後、やはりまだ気になったというか、パスワードを変えたにしろ誰かが何かしらの悪意を僕に向けていると思うと、落ち着かない気分になり、あれやこれやとLINEの乗っ取り被害について調べた。LINEに登録しているIDとパスワードを、他のアプリ等でも併用している場合は、そちらも変えた方がいいといった旨が書いてある記事があった。

 

LINEの侵入を防いだしても、どうやら乗っ取り犯に「IDとパスワードは合っていた」ということは伝わってしまうらしく、それを知った乗っ取り犯は他のサイトやアプリでも、ローラー式にそのIDとパスワードを試していくらしいのだ。僕は思いつく限りの、サイトやアプリのセキュリティを強化した。これにて、本当に安心である。

 

 

僕はお寿司を食べるのかい?
次の日、何事もなくバイトを終え、帰り道の途中にある喫茶店で日記を書いていたら、スマホにメールが一件届いた。飲食店の予約をするサイトからの連絡で、中には「〇〇寿司A店 20時〜20時15分お待ちしております。」と書いてあった。おおやったぜ!お寿司大好き!と喜んだのも束の間、あれ?僕、予約したっけ?と疑問が浮かんだ。

 

その直後にもう一件同じ予約サイトから「〇〇寿司B店 20時〜20時15分 お待ちしております。」とメールが来た。うっわ、寿司のはしご楽しみ!イェイ!!と嬉々とした直後に、あれ?僕予約したっけ?と先程と同じ疑問が再浮上した。

 

あっ!!脳内に稲妻のような衝撃が走った。昨日この飲食店サイトのID、パスワードの変更はしていない。サイトの存在をスッカリ忘れていたのだ。
この飲食店予約サイトとLINEのIDとパスワードは同じものだったことを思い出した。

 

この予約、いや予約行為、強いては予約犯罪も、昨日僕のLINEを乗っ取ろうとした人間と同一人物であることは間違いないと確信した。僕が今出来ることといえば、寿司の予約を解除することである。僕は急いでA店とB店の予約をキャンセルした。すると、その直後にまたメールが2件。A店とB店の予約が入っているのだ。ここからはしばし、僕と乗っ取り犯の、予約VS予約キャンセルの「回転寿司アポイントメント攻防戦」が繰り広げられることとなった。

 

僕が予約キャンセルを入れた直後に、予約が入る。このやり取りを続けていく内に、妙な親近感というか、それこそLINEでやり取りをしているかのような気分に僕はなってきた。そもそも寿司を予約されるという行為は、仲の良い人にされるものである。それを見ず知らずの人間にされると、若干気を許してしまいそうになるのだ。以下では乗っ取り犯を「奴」と呼ぶことにする。奴とはそれくらいの距離感にあるように僕は感じた。

 

 

残念だったな。僕は寿司を食べない。
いつまでも「回転寿司アポイントメント攻防戦」をしていても仕方がない。というか、こいつどんだけ僕に寿司を食べさせたいのだろう。そう考えると、奴が僕のLINEを乗っ取ってからしようとしていたことへの検討がつかなくなり、若干の恐怖心を抱いた。

 

僕は奴が予約を出来ないように、パスワードを変更することにした。寿司屋に行く行かないをやっていないで、最初からそうしておけば良かった。パスワードを変更する前に僕は二杯目のアイスコーヒーを頼んだ。急ぐことはあるまい。奴が今出来ることは、僕のスケジュール帳に「20時15分 寿司屋×2店」と刻ませることくらいだ。

 

アイスコーヒーを飲み、僕は落ち着きを取り戻した。パスワードを変えようとすると、ある事に気がついた。プロフィール情報が変更されていたのだ。がしかし、どこにも変更点がない。住所も、電話番号も、性別も僕のアッ!その瞬間身体中から生暖かい汗が噴き出した。戦慄。

 

 

お前は一体何がしたいんだっ!!!
名前。名前が違う。僕の名前ではない。が、知らない名前ではない。そこにあったのは、僕と一番家が近い友人の名前、つまり僕と回転寿司に行く頻度が一番高い友人の名前が書かれていたのだ。どうゆうことなんだ?頭がおかしくなりそうになった。その友人のタイプからして、悪戯をするような奴ではない。というか、僕がそういった類の悪戯、つまり人がイヤな気持ちになる冗談が嫌いだということが分かっているので、このようなことはしない。そもそも、僕のIDとパスワードを彼が知る由もない。

 

一気に色んな想像が掻き立てられた。人間は「理解出来ない」ものに弱く、恐怖を抱かざるを得ないものだ。焦る気持ちを抑えつつ、僕は一つ一つ奴の行動について自分なりに考えることにした。

・何故知人の名前を?
・予約人数
・何故同じ時間帯に、2店舗予約したのか

大きな疑問点は上記の3つである。まず1つ目。何故奴は、僕の知人の名前を知っているのだろうか。もしや何らかの手段を使って、僕のLINEに侵入できたのだろうか。そこから友人の名前を入手し、僕の名前を友人の名前へと書き換えたのか。いやでも、マザーからの連絡がない。LINEに侵入された形跡がないのだ。百歩譲って仮に侵入され、僕の友人の名前を知ったとして、何故奴は予約サイトに彼の名前を入れたのだろうか?そこの動機が見えない。「実はLINE乗っ取ってます。」という奴からのメッセージか。「お前の大切な友人と寿司を食わせてやるよ。」というメッセージなのか。何にしろ、奴の頭の回路がショートしてしまっていることは確かだ。怖い。

 

そして2つ目の疑問は予約人数。先程の予約履歴を振り返ってみると、どれも2名で登録されていた。1人で良くない?どうして奴は、僕とあともう1人の誰か、計2名で寿司を食わせたかったのだろう。ああ、そうか。「お前の大切な友人と寿司を食わせてやるよ。」これだ。寿司屋に行くように指定されたのは僕だけではない。名前が登録された僕の友人も回転寿司に行くように指定されているのだ。つまりこれは奴からの「落合、そして落合の友人、その2人で寿司屋に行け。」というメッセージだったのだ。成る程な。マジで意味が分からないぜ。

 

もう1パターン考えられる。それは、僕と奴の2人で回転寿司に行くということだ。「寿司屋は2名おさえといた。そこで待つ。」みたいな、何でしょう取引的な何か。僕が指定された回転寿司屋の前で待っていると、後ろから黒いパーカーを着て、フードを被った男が近づいてきて、耳元でこう囁く。「一緒に寿司食わない?」

 

はっ!!?そんなことを考えていると、自然と3つ目にぶち当たる。謎が謎を呼ぶとはまさにこのことだ。奴が来るとしてだ。奴が回転寿司屋に来るとして、一体A店B店どちらに来る?何故奴は2店舗同じ時間帯に予約をした。その動機だけは一切想像もつかない。最初は単なる悪戯かと思ったが、友人の名前を登録された今、悪ふざけでは済まない状況だ。ちなみに予約されていたA店、B店、どちらも僕と彼の行きつけの店だった。

 

怖い。あまりにも怖い。僕はその時パニック状態だったので、とうにパスワードを変えるなんてことは忘れてしまっていた。追い詰められると、思考が狭まるのだ。アイスコーヒーの量が先程よりも増えているように見えた。氷が溶けたのだろう。喉は渇いたが、苦味を味わう気にはなれなかった。

 

 

奴の生活
真っ暗闇の部屋。四畳半。ユニットバス。シャワーの水がトイレに跳ねないようにと仕切られている薄いビニール素材で出来ているカーテンは、下の方が黒ずんでいた。カビだ。台所には282円と書かれた空の発砲スチロール。破れたラップの隅には、豚肉のこま切れと書かれたバーコードが貼られていた。落としたらすぐに割れてしまいそうな食器が、洗い場に雑に突っ込まれている。

 

部屋の唯一の明かりは煌々と光るパソコンの液晶画面のみ。妙に新しく見えるそのパソコンと木造の部屋のミスマッチな感じが、奴のアンバランスな人格を表しているように見えた。奴はパソコンの前で膝を抱えて座っている。液晶の光が、奴の輪郭を捉えた。フードを深く被っているので全体を捉えることは出来なかったが、汚らしい無精髭を生やした口元が、一瞬ニヤッとしたのが見えた。男のパソコンには「〇〇寿司 予約完了」という文字が並んでいた。

 

的な妄想が広がってた頃には、僕はもう涙目であった。一本の藁に、全体重ですがるような思いで、予約サイトのサポートセンターに電話をした。やけに機械的な喋りをする女性に「どうなさいましたか?」と聞かれたので、あの、昨日LINEが乗っ取られそうになって、遂には寿司屋を勝手に予約されたんです、とチグハグなことを言ってしまう始末。

 

25歳、大の男が何をビビっているんだ!と自らを鼓舞し、出来るだけ理路整然と今の状況を説明した。すると、「申し訳ありませんでした。お客様、パスワードのご変更はすでにされましたか?」などと抜かすので、それ所じゃないでしょう!と、もうそうゆうレベルの話じゃないですよ!調べてください!!と言うと、「ナニをシラベタライイですか??」と女性はロボットになってしまった。
全部です!!全部調べてください!と言って、僕は電話を切った。
「ゼンブ調べるとなると、ジカンがかかりますのでアス以降のオリカエシになってシマイマス」と、切り際にロボットはおっしゃった。

 

これは嘘だと思われるかも知れないが、隣の席のトレンチコートを着た探偵風のおじさまが手帳を開きながら電話をしていて、「二階のあの事件なんだけどさ、一階に住んでる女がニオうよ。一度当たってみたんだけど、かなりネジ飛んじゃってるって感じでさ。黒だと思う。」的な話をしていて、その話題が自分が抱えているリスクとリンクする感じがして、恐怖心にますます臨場感が増していった。

 

登録された友人の名前を、「田中太郎」という名前に変えたところで、スマホの電池が切れた。回転寿司のように、僕の思考はグルグルと回り出し、訳の分からぬまま喫茶店を後にした。

 

 

Hey!凡な日々
帰宅し、そのままの格好で僕は和室へと向かい布団に倒れこんだ。あまりにも疲れてしまった。これから先どうなってしまうのだろうと考えると、部屋の明かりすら付ける気がしなかった。ひとまずスマホを充電し、僕は10分程横になった。目を閉じると奴が出てきて、僕に対し何しかしらの怒りを持ちながら、今もなおパソコンでカタカタと攻撃するための準備をしている映像が浮かんだ。奴がこの地球のどこかで呼吸をしていること、生活の中に僕への悪意を持つ時間を設けていることが、怖くて怖くて仕方がなかった。

 

真っ暗なスマホの画面に、白いりんごマークが出てきた。新着のメールが一件。

 

「〇〇寿司A店 20時〜20時15分 お待ちしております。」

 

こいつは頭が狂ってるんだ。もうキャンセルする気すら起きない。
メールの他に、LINEがきていた。犯人からの連絡だったらどうしよう。でも、お母さんからかもしれない。お母さんからだったら、相談してみよう。実家帰りたいな。なんて思いながら、LINEを開くと、先程予約サイトに名前を登録されていた僕の友人から連絡が来ていた。「寿司食いに行かない?千円おごるから。」とそこには書かれていた。何がどうなっていて、どこからどこまでが必然、もしくは偶然なのか。とにかく考えがまとまらなかった。

 

「寿司屋予約した?」
「した!!」
「A店とB店予約しなかった?」
「何で分かるんや〜」
「爆笑したわ。」
「何で??」
「これまでの予約キャンセルされてない?」
「そうなんだよ!予約上手くいかなくて。」
「予約サイトで、自分の名前今日登録しなかった?」
「あ、した」
「何でしたの?」
「なんか登録するよう急に画面に出てきた。」
「マジか。」
「寿司どうする?一件予約取れてるけど。」
「行こう。」

 

回転寿司屋までの道中に話を聞くと、彼は仕事中に僕と寿司を食べに行くことを思いついたらしい。が、互いの退勤時間が不安定なこともあり、上手く集合できるか分からないので、20時~20時15分と余裕を持った時間に、僕の職場が近いA店、彼の職場が近いB店を2店舗同時に予約したらしいのだ。

 

予約しても何度もキャンセルされてしまうので、彼は予約サイトのシステム不具合かと考え、絶えず予約をし続けていたらしい。一番の謎でもある、何故僕のアカウントにログイン出来たのかという点だが、昔、僕のスマホの充電が切れた時に、彼のスマホを借りて寿司屋を予約したことがあるらしく、その際に自動ログイン設定になってしまっていたらしいのだ。

 

なので、彼も自分のアカウントを使っていると思っていたらしく、「名前を登録してください。」というサイトからの指示に従って、自らの名前を登録したとのことだ。

 

友人のタイプからして、悪戯をするような「奴」ではない。が、彼が「奴」だったのだ。

 

先程までのサイテーな気分はもうどこかへと吹き飛んで行ってしまった。今日が給料日だということを忘れていた。僕が奢ろう。

 

2名様でお待ちの、田中太郎様〜ッ!!

 

「Hey!!」

 


 

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Profile

  • 落合のダッチワイフハガキ職人

    「お笑い芸人になりたい」と思い、新卒2ヶ月で勤めていた銀行を退社。
    プールサイドというコンビ名で活動中。
    毎週日曜21時からインターネットラジオ「プールサイドの25Mラジオ」を生放送中。趣味はラジオ投稿。
    現在はコンビニでバイトをしながら。日々の生活を楽しんでいる。