Hey!凡な日々Vol.12

5枚の写真で妄想旅行。
誰も知らない国に行ってきました。

5.31, 2019

ハガキ職人:落合のダッチワイフ
  • essay
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現在、このURBAN TUBEにて月2本コラムを書いている。毎月に2回も何千字にも渡ってかけるようなエピソードが、自分の身に降りかかってたまるかと思いつつもなんとか書けてきた。が、実際の所は若干きついというか、あーでもないこーでもない、何故ならば、しかし、を繰り返しに繰り返し、同じ所でバタバタしているようなことが多いような気がする。ここまで奇跡的に編集部の方を騙せてきたのだが、それもいつまでも続かないだろうとかなんとか思っている内に日が暮れる。気がつけば、締め切りまであと数日しかないみたいなことが良くあるのだ。

 

つまり、現在僕は、行き詰まっている。

 

考えるよりも、まず行動だ!!みたいな体育会系よろしくな精神性というかなんというか、そうゆうものはあまり好きではないのだが、言わんとしていることの理解は出来るのでひとまずこうして、パソコンを開きカタカタと文字を打っている。

 

喫茶店に来て30分は経ったが、やっぱり体を動かしている奴の考えることはガサツだなあ、なんてことを思うばかりで一向に手が進まない。ここまでの文章が、何の意味を持たない字数を稼いでいるばかりの、ただの文字の羅列であることに気がついている方もおられるのではないだろうか。

 

だから何だ!僕は書くことがないのだ。何て急に強気な感情になったりもする訳なのだが、結局はこのコラムを完成させなくてはならないという圧倒的な現実に打ちひしがれてしまう。

 

喫茶店が先程より暗いような気がしてきた。店内で流れている、何語なのかすら分からない素敵な感じの曲も「あなたは早く書かなければならない。締め切りはすぐそこ。」みたいなことを歌っていることだけは分かる。

 

流石にまずいなあと思って、編集部の方に「書くことがないのです。」と素直に連絡を入れると、5枚の写真が送られてきた。

 

「これで何か書いてください。」

 

ということらしい。何を言っているんだろうという疑心暗鬼な気持ちと、なんて自由な媒体なんだろうというトキメキが相まって、何故かメキメキとやる気が出てきた。

 

これから書く文章は、妄想である。写真に含まれる5W1Hを僕は何も知らない。だけど文章の上だったら、狭い喫茶店から、どこまでも行ける。旅に出る前に一つだけ言っておかなければならないことがある。

 

「ここからのコラムはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。写真は本物だけど。」

 

それでは行ってきます!!

 

目を開くと、暗闇が広がっていた。気がつかない内に眠ってしまっていたのだろう。微妙というか独特というか、とにかく身に覚えのない室内のニオイで、ここが海外であるということを実感する。日本から7時間以上にも渡るフライトだった。

 

ベックリン空港に着いてから、色々と街の中を周る予定だったのが、どんな景色を見ても、感想よりも先に体が重いということが浮かんでしまいそうだったので、ひとまずホテルに行きチェックインを済ませた。受付の金髪なお姉さんが部屋の鍵を渡す際に、ウンタラカンタラと僕に言ったので、反射的にOK!と答えた。

 

207と書かれた扉を開け、僕は愕然とした。ベッドが4つもあったからだ。まさかの相部屋だったのである。到着してから体がグッタリしてしまうことが予想できていた僕は、空港から一番近いホテル予約をした。とにかく近ければ近い程と思うあまり、次第に「ベックリン空港から一番近いホテルが、ホテルとしても一番良いホテルという」のような思考になってしまい、最終的にこのホテルに辿り着いた。

 

僕は服を買いに行った時も基本的に試着はしない。引っ越す時も一度の内見で部屋を決める。これから起きそうなアレコレよりも、今かったるいことの方が一番の問題だと感じる僕にとって、ホテルの予約なんてものはテキトーに済ませてしまうのが当たり前なのである。あとの祭りスタイルである。そしてその祭りを目の当たりして、今愕然としている訳なのである。

 

もっと細かく見ておけば良かった、外観の画像だけじゃなく内観も見ておくべきだった。と様々な後悔を胸にベッドに横たわった。

 

硬い。このベッドは僕を受け入れるつもりがない。ベッドinというよりかはベッドonといった感じである。眠ると決めはしないまま目を瞑っていると、ある疑問が浮かんだ。それは僕が今横たわっているベッドは、僕に割り当てられているベッドで正しいのだろうかということだ。

 

シェアタイプの部屋に宿泊したことがないので、基本的なルールが良く分からない。早いもの勝ちなのだろうか、予約完了メールのどこかにベッドの割り当てが書いてあったのかもしれないと思い、スマホを開いたのだがどこにも書いていない。

 

僕は一人っ子である。つまり二段ベッドに果てしない憧れを持っている。正直二段目で寝てみたい。異国の天井を目の前にしてみたい。

 

そう強く思うからこそ、僕は一段目で眠ることにした。ここが誰かのベッドだとしても、謙虚な奴だと思ってもらえるからだ。

 

これから数日間共にする、ジムだかマイケルだかに初日から悪印象を持たれては困るのである。ああ、最悪だと思いながら、無意識化で寝てしまおうと決めた時、鍵を受け取った時のことを思い出した。

 

もしかしたらお姉さんは「シェアだよ?いいの?他あるけど?」みたいなことを言っていたのかもしれない。両方の口角を強めに引き上げる感じの笑顔は「素敵な旅を楽しんで!」的なことではなく、(笑)だったのかもしれない。OK!と答えた自分を情けなく思った。

こっちの時間に合わせた時計を見ると、時計の針は7を指していた。19時である。一段目のベッドというのはこんなにも暗いものなのだなと思った。弟って可哀想だ。まだ部屋の中に僕以外いなさそうだ。もしかしたらこのまま誰も来ないのかもしれないなと思うと、体が軽くなった気がして途端に腹が減ってきた。

 

ひとまずトイレに行こうと部屋を見渡すと、室内にトイレやシャワーがない。どうやら2階の宿泊客全員とシェアしなくてはならないようだ。部屋を出て、エレベータ横にトイレを指すと思われる文字が書かれた扉があった。中に入ると、やはりトイレだった。

何を目的としてこの色にしたのだろうか。食欲の赤を基調にとしたトイレにだなんて、減った腹が満たされてしまいそうだ。壁に「PURPOSE OF」なんとかと書かれたポスターのようなものがあった。小便をしながら、OFの後は何て書かれているのだろうと気になったのだが、誰かの服が邪魔して見えない。服をどけてまで見る程かどうか考えている内に用は足し終えた。トイレから部屋に向かう途中に、きっと「泣いている顔も笑っている顔も、どんなあなたも素敵だよ」的な、居酒屋のトイレの壁に掛かっているような、7流詩人が書いたポエムなのだろうと思った。どこの国にも似たようなものだなと思いホッコリした。

 

部屋に戻り半袖、半ズボンに着替え、最後にカーディガンを羽織った。この街はとっくに真夏であるのだが、夜になると少し気温が下がるという。近くにあるナギヌ海岸から吹く涼しい風が流れてくるというのだ。

 

誰も僕のことを知らない。一人夜風に当たりながら、財布だけを持った軽装な格好で、知らない街を歩くというのも粋なものじゃないかと思い、胸が躍った。

 

登山用のリュックの中から財布を手に取り、部屋を出ようと思った時、見知らぬ二人の外国人の顔がふと頭に浮かんだ。

 

ジムとマイケル。ジムとマイケルとする。

 

ジムは旅好きの男だ。恵まれた環境で育ち、親の期待を背負い有名大学を出ながら、「遊び」も知っている器用なやつだ。ジムが高校の時に自宅で開いたプロムに、当時USのヒットチャートを賑わせていたミランダ姉妹が足を運びにやってきたってんだから、それはもうである。ジムは大学を出た後、何かに行き詰る。それはここまでの人生の全てが、上手く行きすぎていることに不安を感じたからかもしれない。彼は、世界1周の旅に出た。

 

旅の途中に出会ったのが、ジムと同い年であったマイケルである。気さくな奴だ。彼は純粋に旅が好きで世界一周の旅をしているらしい。二人は意気投合し、近くのバーに行き酒を飲んだ。お互いのこれまでの環境は違うものの、何かしら互いに共鳴しあうものを感じた。酒のせいかもしれない。バーを後にした二人は肩を組み、千鳥足でホテルへと向かった。そう俺のいるホテルへと。

 

ジムに鍵を渡す際、金髪の姉ちゃんは「シェアですがよろしいですか?先に一人お客様がいます。」と言った。ジムとマイケルはOK!と叫んだ。

 

彼らが部屋に入ると、先程まで人がいた形跡があった。向かって左下のベッドに大きなリュックが置いてあった。

 

「ベッドの一段目をとるなんて、謙虚な奴だな」とマイケルは笑った。

 

酒に酔ったジムは、どんな奴なのだろうと僕のリュックを漁った。マイケルはそれを見て、やめろやめろと言ったがやめようとはしなかった。ジムは財布を手に取り、中から身分証を取り出し「OCHIAI」と言った。これ以上の展開がないと分かったジムは、財布の中から金を抜くふりをした。

 

マイケルは初めてこの時ジムを本格的に止めた。ジムは「ジョーク。」と言い、わざとらしい間を置いたマイケルがAhahahahahah!!!と笑った。マイケルはこの時、ジムを残念に思った。彼と自分は違うと分かったのだ。

 

ジムは財布をリュックに戻し、斜め向かいのベッドに向かった。ポケットに僕のお金を忍ばせながら。これも彼が学生時代覚えた「遊び」の一つなのかもしれない。

 

なんてことを思うと、リュックを置いて部屋を出る訳にはいかず、重い重いリュックを背負いながら僕は飯を食いにホテルを出た。なんとなく裏口から。

 

細い一本道の遠くから心地よい風が吹き込んでくる。

オレンジ色の街灯が、「異国にたった俺一人。」なんて気持ちにさせる。が、リュックがあまりにも重い。クソっクソっとつぶやきながら、僕は「ドウワン通り」という観光地に向かった。

 

このドウワン通りというのは、アジアのニオイが漂っている。1970年代にドウワン・マツナガという一人のシェフが、この国にやってきた。ドウワンは、アジア料理を世界に広めたいと、食に精通するこの国に店を開いた。ドウワンの腕は確かであり、多くの客を集め大きな話題となった。アジア料理が十分通用することが分かったドウワンは、次に自分が培ってきた技術と知識を継承することを始めた。

 

様々な料理人がドウワンの弟子となり、次第にこの通りはドウワンの腕を確かに受け継いだ者達が経営する、アジア料理の並ぶ飲食通りとなった。

 

ドウワンはこの街で死んだ。誰が決めたのかは知らないが、それからこの通りは「ドウワン通り」と呼ばれるようになった。

 

遠くの方に、先程のオレンジ色の街灯とは対照的とも言える、ギラギラした明かりが見える。すぐに「ドウワン通り」だと分かった。
ドウワン像(ドウワンは自分の像を作られることを嫌がったそうなので、なんか写真は撮らなかった。)にペコッと頭を下げ、早速歩を進めた。

 

やはりアジアから来た人が多い。すぐ近くにオフィスビルが見える。ビルの入り口手前まで、このドウワン通りは続いている。この通りを守り続けたこの国の人達の思いが伝わってくるような気がした。

酒、魚、肉、様々な旨いもののニオイがする。腹は減ったが、まだ少し街の中を探索したかったので、食べ歩きをしようと思った。行列が出来ていた出店があったので、そこに並び、並んでいる食べ物の中で最も肉々しいと思われるものを指差した。それはウータラという食べ物らしく、日本でいう所の肉まんのようなものだった。中には、もの凄い強烈な肉のニオイがする豚肉と、春雨、ジャガイモが入っていた。僕はそれを食べながら、ドウワン通りを後にした。

 

それからは地図などはみず、気の赴くままに歩いた。

 

涼しい向い風があまりにも心地よかったので、風が吹く方に向かってとにかく歩を進めた。ウータラを食べ終わった頃、少し肌寒くなった。向こうに大きなオフィスビルが見える。あそこの足元に「ドウワン通り」がある。結構遠くまで歩いてきてしまった。

 

虹色の橋がやたら都会的で、僕の今の気分とは合わなかった。屋形船が静かに走っていた。中から、賑わう声が聞こえてそのままどっかへ消えていった。

 

ナギヌ海岸へと流れる川らしい。近くに海がある。風が冷たい。
遠くにあるオフィスビルの一室の電気が消えた。今日は帰ってもう眠ることにした。

「失礼します。」

 

隣の席を喫茶店のウェイトレスが、布巾でせっせと拭いている。
家に帰って眠ろうと思う。

 

4泊5日の旅だったのだけど、今回のコラムはここまでにする。
また書くことがなくなった時にでも。

 


 

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Profile

  • 落合のダッチワイフハガキ職人

    「お笑い芸人になりたい」と思い、新卒2ヶ月で勤めていた銀行を退社。
    プールサイドというコンビ名で活動中。
    毎週日曜21時からインターネットラジオ「プールサイドの25Mラジオ」を生放送中。趣味はラジオ投稿。
    現在はコンビニでバイトをしながら。日々の生活を楽しんでいる。