Hey!凡な日々 Vol.17

サービス残業との戦い!!
孤高のバイト生活!

8.15, 2019

ハガキ職人:落合のダッチワイフ
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夢中で大暴れ!!!
目の前には見慣れた染み。自室の天井であると気がつくまでに少しかかる。
どうやら眠っていたらしい。最近自分の口から飛び出た罵声で目がさめる。
家電量販店の棚をドミノ倒しにしたり、奇声を発しながら街中を駆け回ったりと、不安感を煽るような夢ばかりを立て続けに見るようになった。
恐らくとてつもないストレスを抱えているのだと思う。
ストレスの原因は仕事にある。
現在、僕は病院の中にある売店でバイトをしている。働き始めてから2年と半分が過ぎた。
最近26歳になった。
僕はもしかしたら「大人」なのかもしれない。
実体のない焦燥感のようなものに絶えず襲われている。
特にバイトをしている時に感じるのだ。
お笑い芸人になりたいとサラリーマンを辞めてから数年、僕は一体何をしていたんだろうと、朝の7時過ぎに真っ白な蛍光灯の下、鉄のようなおにぎりを並べながら考える。指先が冷える。
今の職場が嫌な訳ではない。人間関係も上手くいっているし、仕事もそこまで大変ではない。だが、どうやらそこが気に食わないみたいなのだ。
いや、何もかもが気に食わないのかもしれない。
「ここで上手くやってどうする?」
そんなことを考えながら、8時間30分レジを打ち続ける日々を送っている。

先日、職場の女の子に、落合君ってお笑いやってるの?と聞かれた。
「ここで「働いている人」かと思った~」と、彼女はそう言った。
僕の返事を聞く前に。
また他の人からも「落合はバイトで忙しいもんな。」と言われることもある。
今の僕に他意を受け取る余裕はない。
言われてすぐさま、奴らの顔をぶん殴ることが出来ればそれで済む話なのだが、僕はまだ生きていかなければならない。
それにぶん殴る勇気も、反論する気合いもない。
実際、ぐうの音も出ないのかもしれない。彼女達の言う通りなんだ。
現状、どうすることもできない。

 

日々鋭さを増すこの尖った気持ちの先端から滴る、ドス黒さをインクとし、こうして左から右へと文字を進めていく。
ぶん殴ってるんだ!!!今!!!って気持ちでね。
とは言っても、パソコンで書いているのだけど。

 

もう一度言う。
現在、僕は病院の売店でバイトをしている。
バイトばかりをしている。

最近の出来事を書こうと思う。

 

ムカつく職場
早番は朝の7時から勤務開始だ。
店内は薄暗く、弁当コーナーだけが目に刺さるような白い光を放っている。
店の電気をつけるのは、開店時間の7時30分と決まっている。
開店前に電気をつけると、その明かりに吸い寄せられたかのように、客が集まってきてしまうのだ。
1.5畳ほどの更衣室で制服に着替え、制汗剤を身体中に染み込ませる。
エアコンが壊れてしまったため、店内は常にモンモンとしていて、熱気に包まれている。イラつく。
この店は、今年の夏を2台の扇風機で凌ぐつもりらしい。
店長が言っていたので間違いはないと思う。

 

早番は2人体制をとっている。僕とペアを組むのは、社員のアラレさんである。
かなり独特な人なので、この人のことだけで広辞苑2冊分くらいは書けてしまいそうなのだが、個人のことを書くのはここでは避けよう。
何故、彼女が僕の中で「アラレさん」と呼ばれているかだけは説明しておこうと思う。
以前、僕がアラレちゃんのイラストが書かれたトートバッグを持って出勤した時、それを見たアラレさんが「懐かしい!学生時代、私もよくアラレちゃんと呼ばれていたのよ。」と言った。それだけのことである。それだけのことであるが、僕は返答に困った。現在の彼女の性格、人への接し方等々から推測して、とても辛い学生時代を送ったのだなと考えたからである。
僕は敬意を込めて、「アラレさん。」と心の中で呼んでいる。

 

そんなことはどうだっていい。とにかく早番は、アラレさんとペアなのである。

 

彼女は僕が店に着く前に、すでに仕事を始めている。
せっせとおにぎりを並べたり、イートインコーナーの清掃をしたりと、朝っぱらからせわしなく動いている。
「せっせ」と働いてる意識が自分の中にある人間は、本当に「せっせ」と動く。
ああ、忙し、ああ、忙し、が身体中から滲みでている。
僕は昔から、急いでいる人を見るとなんだかイラッとする。
几帳面にパンを並べているアラレさんの背中を見て、阿保かと思ってしまうのだ。

とある噂

早朝から、「クロワッサンがここで、カレーパンがここだから」とやっているアラレさんの秘孔を突きたいのには、実はもうちょい深い訳がある。

 

それは、彼女が6時40分から仕事を始めていることが、店内で素晴らしいとされていること。
そして彼女もそれをまんざらでもないような顔、つまり阿呆面でその賞賛を真っ向から受け止めているということ。
この2つのことがあった上での「せっせ」なのだ。

 

「せっせ」の中には
「私はこんなにも早い時間から働いています!ああ、忙しい、忙しい。」
という意が込められている。

 

つい先日、「三度の飯と店内ゴシップ」が大好きな婆さんに、
「最近遅刻してるって、噂聞いたよお~~」と言われた。
それはおかしな話である。何故ならここ最近僕は遅刻をしていないからである。
まず「噂」という表現が如何に不快かをゴシップ婆に説明し、ある程度説教をした後、自分は遅刻などしていないという旨の主張をした。
「更衣室から出てくる時間が、毎回7時を超えてるって聞いたよ。」と彼女は言った。

 

成る程。確かにそうだ。僕が店に着くのは6時55分。それから制服に着替えるため更衣室から出るのは7時02分くらいになる。
それを彼女は遅刻だと言っているらしいのだ。
そしてアラレさんしか知るはずのないことをゴシップ婆が知っているということは、アラレさんが「落合君は、毎朝遅刻している」と広めているということだ。

 

僕とゴシップ婆のやり取りを聞いていたアラレさんが、
「社会人は10分前出勤が常識よ~~!」とヘラヘラしながら僕に言った。
彼女がヘラヘラする時は大抵「これまで言えてなかった本音」を言う時である。
そのへり下る感じが琴線に触れる。
ここまで悲しい生き方をしてきたことが伺える。

 

彼女の「せっせ」の中に含まれている「ああ、忙し、ああ、忙し」には「落合君が遅いから、忙し、忙し」という意味が更に含まれていたのだ。
だから見ていて不快だった訳である。

 

「僕に関して言いたいことがあるなら、ゴシップ婆に言うのではなく、直接僕に意見を言ってください。次からはもう一本早い電車で来ます。」とアラレさんに告げ、事務所を出ようとした時
「落合君、怒ってる?」
「怒ってるよ(笑)」
というゴシップ婆とアラレさんの会話が聞こえた。

 

僕はその瞬間事務所に急いで戻って、
「僕のサービス残業も注意してくださいね?」と言った。

サービス残業

というのもだ、この店は当然のようにサービス残業が行われている。
退勤時間は15時30分なのだが、店を出るのは15時50分。毎日のことである。
いつからか、残業代が出ないのが当たり前になっていて、むしろ定時であがろうとすると「え?」みたいな空気が店一体に漂うようになってしまっている。
こちとらボランティアではないので、これは良くないねということで、7月の頭に僕は社員のアラレさんに「定時で上がりたい」と言った旨の相談をした。

 

「私もそう思う。落合君は時給制だしね。ダメよ、サービス残業なんてしちゃ。」
と彼女は言った。
怒鳴り散らしてやろうかと思った。
実は僕が定時に帰れない理由は全て、アラレさんにあるのだ。
この店は帰る際、社員に「帰っていいですか?」という許可を求めるという非常に原始人チックなルールがある。
僕は15時30分に毎回「もう帰っていいです?」とアラレさんに聞いているのだが、彼女は決まって2つや3つ仕事を投げてくるのだ。
しかもその仕事内容の殆どが、定時上がりの僕がやらなくてもいいことばかりなのである。
アラレさんは、毎日1時間以上サービス残業をしている。
以前、どうしてそんなに無償で働くのかと質問したところ、仕事が回らないからだと言っていた。何のためにここで働いているのだろうかと、純粋に疑問に思った。自分の人生に流れている時間を舐めているとしか思えない。
僕がそれに巻き込まれる筋合いはない。
周りのスタッフは、彼女のことをよく頑張っていると賞賛するのだから、頭が痛い。それに調子づいて、7時出勤のところを6時40分に来て「せっせ」と働きながら、「落合君は遅刻をしている。」だなんて言うもんだからぶったまげである。まあ、遅刻は良くないのだけど。

孤独な戦い

「僕のサービス残業も注意してくださいね?」
と言うと、二人は黙った。

 

制服に着替え終わり、更衣室から出るのが7時2分。
アラレさんはこれが気に食わないらしい。その気持ちは分かる。
これは遅刻だ、僕が悪いということを認めようではないか。
だから、素直に謝った。

 

が、認めてしまうとここで一つの疑問が湧き上がる。
それは、どうして定時を過ぎた後に、制服を着ている僕を見て誰も注意してくれないのだろうかということだ。
つまり始業時間が過ぎた2分後に制服を着て店に出ることが問題なのであれば、終業後20分ものあいだ制服を着て労働しているのも、問題なのではないかという話である。

 

「素直じゃなくなったね。」とアラレさんは言った。
ゴシップ婆は「昔は、可愛かったのにね。」とおちゃらけた。
2人はヘラヘラして、その場の緊迫した雰囲気を和ませにかかった。

 

僕はここ最近、必死になってサービス残業の撤廃活動を行っていた。
自分が遅番になった時は、早番の人間を定時に帰らせようとしたり、早番の時は気まずさに負けずやるべき仕事を終えたら、定時であがるようにしていた。
アラレさんを含めたスタッフ全員が、僕のサービス残業撤廃活動に同意しているかのように見えたし、実際ミーティングのようなものでも皆から同意を得た。

 

が、振り返ると、実際は違ったことが今になって分かった。
僕が定時で上がろうとしたりすると0コンマ何秒店長の顔は曇るし、ゴシップ婆を定時で帰らせようとすると、まさかのゴシップ婆が迷惑そうな顔をしていたのである。
皆、口では「落合君の言う通り、サービス残業は辞めよう!」と言ってはいたものの、内心では「鬱陶しいな。」と思っていたのだ。
その空気感を薄々感じ取ってはいたのだが、そんな訳がないと僕は思っていた。
が、アラレさんとゴシップ婆が目を合わせながらヘラヘラするのを見て、それが確信に変わったのである。

 

「サービス残業撤廃!!!サービス残業撤廃!!!」と勇猛果敢に声を上げ、「なあ!?そうだろ!?」と後ろを振り返ると、そこには無人の荒野が広がっていたのである。なんと間抜けな。

わしゃあ、トンだピエロかっ!!

ヘラヘラする二人を見て、僕は迷った。
ブチ切れるか、和んだ空気に乗っかるか。
答えはすぐに出た。

 

「すいませ~ん、素直になりま~~ッッス!!」
である。

 

「お、その調子その調子!!」
「戻ってきたね!!」
と彼女達は言った。

 

事務所を飛び出し、店を出て、僕は外のゴミ捨て場に向かった。
ダンボールを思いっきり蹴っ飛ばした。蹴っても足が痛くならないようなものを選んだ上でだ。
涙が出てきそうになった。それには自分でも驚いた。
何もかもがダサくて、全部違くて、ここで何をしているんだろうとか、みんな大嫌いとか、そうゆう真っ黒なものが一斉に襲いかかってきて、目の辺りが熱くなったんだけど、まだここでお金を稼いで、来月もご飯を食べたいと思うと、一気にそれらの気持ちと涙が引いていった。萎えたのだ。

 

帰り道、花が咲いていた。綺麗だと思えたことに安心した。
写真を撮った。忘れないこと。

僕は今もなお、毎日サービス残業をしている。
アラレさんが、「帰らなくていいの?」と定時を過ぎた後にわざと聞いてくる。

 

「いやあ、やっぱり人手が足りないですから、多少のサービス残業は仕方がないですよ!」
なんてことを僕は平気で口にしているのだ。
そして事務所の扉を強く閉めたり、客に無愛想に接したり、ダンボールを蹴ったりしながら働いているのだ。

いつまでここにいるのだろうか。
四季は巡り、花は咲き、僕は変わらず、靴に穴、花が枯れ、僕は変わらず。

 

それが今の僕の毎日である。
黙って見ていてくれ。
バイトの人だなんて、嘘でも言わないでくれ。
僕が一番分かっている。

 

昼は蕎麦を食う。

 


 

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Profile

  • 落合のダッチワイフハガキ職人

    「お笑い芸人になりたい」と思い、新卒2ヶ月で勤めていた銀行を退社。
    プールサイドというコンビ名で活動中。
    毎週日曜21時からインターネットラジオ「プールサイドの25Mラジオ」を生放送中。趣味はラジオ投稿。
    現在はコンビニでバイトをしながら。日々の生活を楽しんでいる。