Hey!凡な日々Vol.18

26歳、フリーターの夏休み。

8.31, 2019

ハガキ職人:落合のダッチワイフ
  • essay
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「現代的夏休み少年」
夏休みが始まった。とは言っても、それは世間の出来事でありフリーターの僕には一切関係がない。
真っ昼間、バイト先に向かおうと電車に乗るとほとんどの席が埋まっている。
フリーターの特権とも言える平日休み、がら空きであるはずの喫茶店、ファミレスに行っても、店内は騒がしい。
無垢な少年の永遠に感じる程の夏休みと、薄汚れた26歳フリーターのかけがえのない平日休みが激突しているのである。
半袖、半ズボンの少年を見て、ああ、夏らしいこと、というか「夏休み」を感じられるようなことがしたいなと思った。
強いて言えば「夏休み」を感じられるだけでなく、あの少年のように「夏休み」を無垢な気持ちで楽しめるところまで、自分を持っていけたらなあと考えていたのが、7月の頭の頃である。

 

夏休みの少年と言ったら、麦わら帽子に、虫カゴ、虫とり網というのがパブリックイメージであるが、それは少年達に求める大人側の期待や幻想の類のものであり、実際の夏休み少年と言ったら、片手にスマホ、なのである。
残念だ、これだから現代っ子ってのは、風情がないというか、可愛げがないというか、なんてぶつくさつぶやきながら、彼らのスマホをチラと覗いてみると、ゲームをしている。嫌になっちゃうね、本当に。
「いた!いた!」「逃げられた!」「やった~!」なんて友達数人でハシャイでいる。
もう一度、少年が持っているスマホの画面に目をやると、何かを捕まえようとしているではないか。
少年の瞳は、まるで虫捕り少年そのものなのである。

 

持っているのがスマホであるだけで、やっていることはカブトムシを追っているあのイガグリ坊主の夏休み少年と同じではないか。
おじさんはとても安心しました。
そしてそのゲームを僕もやってみたいと思いました。
こうして僕の夏休みは始まったのであります。

「カレーライス」
少年達がやっていたスマホゲームは、ゲーム内の生き物を捕まえるという至極単純なものであった。
だったら家でやればいいじゃないか、否、そうゆう訳にもいかないのである。
家の中にいては、生き物を捕まえることができないのである。昆虫と同じように。
このゲームは我々の現実世界とリンクしている。
ゲーム内のマップは、僕が今実際に立っている場所周辺のマップになっている。
つまり、ゲームの中にも僕が普段使っている最寄りの駅、ファストフード店、コンビニ等が現れるということなのだ。
そしてそのスマホゲームを起動させながら、実際に道を歩いていると、突如生き物が現れる。
このように実際に足を使わなくては、ゲーム内の生き物と遭遇できないのである。
その他にも、生き物の巣と呼ばれる場所があったり、水の性質を持った生き物が欲しければ実際の水辺を歩く等々色々あるのだが、説明はこれくらいにしておこうかと思う。
そもそもこのスマホゲームは、夏休みの少年に限らず、年がら年中、老若男女がやっている。
誰もが知っているゲームだと言っても過言ではないはずなのだ。
では何故わざわざこのように事細かに、回りくどく、わざわざ「スマホゲーム」などと表記する必要があるのか。
それには大人の事情というものが絡んでいる。そのような事情を飲み込んでしまう自分もまた大人になってしまったなと、落ち込むような気もするが、仕方がない。
カレーライスのことを書いているとする。が、「カレーライス」と書けないのが今の僕の状況なのだ。スパイスがああで、人参やジャガイモ、二日目から真価が発揮されて~と外堀から埋めるしかない。とは言っても、カレーライスくらいこの「スマホゲーム」は国民的ではあるから、伝わるはずだとは思うのだけど。

「どハマり!!」
このスマホゲームを始めて数日後、僕は完全な虫捕り少年と化していた。
とにかく虫が欲しい。カブトムシやクワガタは勿論、カナブンや蟻、蛾でも何でも良い、捕まえるという行為そのものが面白くて仕方がなかったのである。
捕まえた昆虫を虫カゴに入れた後、家でじっくり見るというのが、昆虫採集の楽しみ方の一つでもあるが、このスマホゲームにもその要素がある。
外で捕まえてきた生き物を、家の中に出せるのである。
スマホの画面を通して家の中を見ると、な、なんと、目の前に大きな生き物がいるではないか。現実世界とゲームの境が曖昧になった瞬間に、僕はとてつもない興奮を覚えた。

「俯瞰の目」
つい先日、バイト先の最寄り駅にとても価値の高い生き物が現れたという情報が入った。オオクワガタのような生き物である。カナブンしか持っていない自分からすれば、一世一代のチャンスである。
急いで職場を出て、駅に向かってダッシュした。
改札前は、虫とり網を持った老若男女で溢れかえっていた。

 

僕は病院の中にある売店で働いている。お客さんのほとんどが看護師だ。
僕は普段かなりカッコつけている。同性代の若い女の子達がたくさんやって来るので当然のことである。クールでミステリアスな店員を演じているのだ。
手ぶらで出勤、無駄なものは持ち歩かない主義、ズボンの後ろポケットには電車の中で読むための文庫本1冊、スマホゲームとかそうゆう大衆的なものには疎い感じ、そのような雰囲気を終始漂わせているのである。

 

この駅は全看護師が利用すると言っても過言ではない。
そしてオオクワガタが現れた時間は、彼女達の退勤時間と一致している。
今の僕の姿は彼女達の目にどう映るだろうか。
バイト着や550mlのお茶とスポーツドリンクが二本入った大きなリュックサックを背負い、片手には虫捕り網、文庫本が入っているはずの後ろポケットには携帯充電器が収納されていて、そこからケーブルが伸び、僕の手元の虫捕り網と繋がっている。
見られたくないと思うのが正直な所である。

 

僕は出来るだけ隅の方に行き、息を潜めるようにしてゲームを起動した。
オオクワガタのような特別な生き物は、一人では決して捕まえることが出来ず、大人数で協力する必要があるのだ。
画面を見ると25とあった。つまり、今この場に25人の虫捕り少年少女がいるのである。
カップルで来ている若者もいれば、まんま夏休みの少年もいた。
お惣菜が入った買い物袋を右手に持ちながら、左手で虫捕り網を持つおばさん、
虫捕り網を二本持ちしているサラリーマンもいた。
彼、彼女達は決して周囲を気にする素振りを見せなかった。
真っ直ぐな瞳でスマホを見つめ、オオクワガタ捕獲イベントが始まるのを待っていたのだ。
彼らは紛れもなく夏休みの少年少女だったのである。

 

そんな彼らを一瞬でも恥ずかしいと思ってしまった自分に怒りを覚えた。
俯瞰して見ている自分が段々と嫌になる。
同世代の女性を気にしてコソコソとオオクワガタを手に入れようとする自分が卑しく、そして恥ずかしい人間に思えてきたのである。

 

昔から僕はそうだった。
高校の頃僕は、放課後毎日友人数人と百貨店の3階の下着売り場の前にあるベンチに座ってゲームをしていた。
ある時小洒落た買い物袋を手にした、隣のクラスのイケている男子数人が僕らの前を通り、フフっと鼻で笑った。
それから僕は、友人からのゲームの誘いに乗らなくなったのだ。

 

今ではそれをとても後悔している。理由は分からないが、あそこのベンチでゲームをしているべきだったと思う。
同じ轍は踏まない、看護師がなんだ!くだらない。
虫捕り少年少女に混じって一緒にプレーしようではないかと思い、足を踏み出そうとすると
「やっぱりそうだ~~」
と、女子大生二人が僕のスマホを覗くようにして、歩き去っていった。

 

僕の足はそこで固まってしまい、結局僕は汚い大人のまま、オオクワガタ捕獲イベントに挑戦することにした。
オオクワガタはとても立派なもので、あまりにも強大な力を秘めていたのだが、25人の虫捕り少年少女のおかげもあってか、なんとか捕まえることが出来た。

 

捕まえた瞬間、僕は「よっしゃ!」と声に出し無意識にガッツポーズをした。
数歩先にいた、虫捕り青年と目が合い僕は軽く会釈をした。
青年は「やりましたね。」という顔をして、どこかへと消えていった。
サラリーマン、主婦、少年、カップルの姿も見えなくなっていた。
先程まで同じ目的のために共闘したことすら、なかったかのように。
夏は、やはり儚い。

「終わらぬ夏休み」
最近の僕は、真っ直ぐ家に帰ることが不可能になっている。
予定より1時間、もしくは2時間は遅く家に着く。虫とり網片手に街中を歩き回っているからである。
改札にまたもオオクワガタなるものが現れた時には、駅のど真ん中で虫網を掲げている。恥じらいもクソもないのである。
夏休みは終わろうとしているらしいが、それも世間の出来事である。
どうやらこのゲームには、あきがこないらしい。
お後がよろしいようで。

 


 

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Profile

  • 落合のダッチワイフハガキ職人

    「お笑い芸人になりたい」と思い、新卒2ヶ月で勤めていた銀行を退社。
    プールサイドというコンビ名で活動中。
    毎週日曜21時からインターネットラジオ「プールサイドの25Mラジオ」を生放送中。趣味はラジオ投稿。
    現在はコンビニでバイトをしながら。日々の生活を楽しんでいる。