二時間半のアンビエント。

新大阪←→品川、新大阪←→博多。まるで日本の社会の縮図のような二時間半。皆さんはいかがお過ごしですか?

6.5, 2018

IMA:ZINE 代表取締役社長:岩井 祐二
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大阪を拠点にしている僕は、新幹線の利用頻度が異様に高い。大阪の空港は、僕にとっては不便極まりない場所にあり、生来の飛行機嫌いも相まって、国内移動における利用価値がほとんどない。ゆえに、東京、名古屋、福岡、はすべて新幹線で移動する。

 

中でも、東京と福岡へ行く機会は多く、ともに新大阪から新幹線で約二時間半。この150分は、多忙に過ごす毎日において、とても貴重なものだと感じているのは僕だけではないはずだ。

 

その時間を快適に過ごすためには、車両選びと席選びが重要になる。ヘヴィスモーカーの僕は、必然的に喫煙室近くの指定席車両を選ぶ。

 

4号車は、自由席の3号車まで行かないと喫煙室がなく、満員の時にはデッキに人がごった返し、どうにも落ち着かない。喫煙室も小さく、なんだか他の車両に比べてグレードが落ちる気がしてしまうから、なし。

 

7号車は、グリーン車である8号車の乗客も利用する。ゆえにそこには小さな社会の縮図があり、吸い終えた後に左右に別れて歩き出す時、否が応でも社会的格差を痛感させられる。乗務員の態度も、グリーンユーザーに対しては一味違う(被害妄想か)。普段から社会の構図に疑問を抱く人間としては、新幹線の中ぐらい、それを感じずに過ごしたい、という思いから、7号車もなし。

 

残るは14号車と15号車の二つに絞られた。僕の本命は14号車だ。自分が喫煙者なのに何て事を言うんだ、とお叱りを受けそうだが、15号車に乗れば、挟まれるのは14号車と16号車。今も一部残っているけれど、もともと15号車と16号車は喫煙車両だったため、その名残か16号車は13号車に比べて喫煙者が多い気がする。喫煙者(自分もそうなのだけど)よりも、禁煙者の方がマナーがいいという偏見を持つ僕は、喫煙者の割合が多い16号車よりも、片方にマナーがいい13号車がある方がベター、という歪んだ感覚で、14号車を選ぶ。

 

そして、間違いなく僕の理想は、C席である。隣に人がいない、という確率が最も高い、そしてヘヴィレストルームユーザーでありヘヴィスモーカーである僕は、人に気兼ねせずに席を立ちたいがゆえ、完全にC席一択だ。わがままを言えば、9列から13列あたりが最高である。前や後ろの席は、それだけ人の往来が多く、気が散る、という理由から。それぐらい、僕は席選びにこだわる。

 

いま、僕は14号車10列Cに座りながらこの原稿を書いているわけだけど、快適以外の何物でもない。

 

そんな僕には、新幹線移動における4つの必携アイテムがある。ひとつはPC。これは車内で仕事をするかしないかで言えば、する確率はかなり低いんだけど、座る前はやる気に満ち溢れているから、自然と前の網ポケットに差し込む。体勢を整えておきたいだけなのだ。ふたつめはブラックコーヒーのボトル。どんなことがあってもこれは欠かせない。みっつめはiPad。音楽はすべてiPadで聴く。最近の新幹線BGMは、最新のHIP HOP。Childish Gambinoや、Migos、DrakeにKendrick Lamarが僕の身体を揺らす。つい先月までは、andymoriのヘヴィロが続いた。いまはそれが少しセンチメンタルすぎる。そして、よっつめは本を二冊。いま現在、網ポケットには伊丹十三大先生の『女たちよ!』と、レイモンド・カーヴァーを村上春樹が訳した『愛について語るときに我々の語ること』(村上春樹は自分で書いたものより翻訳家としての方が優れていると個人的に思う)の二冊が挿さっている。二時間半の間、まったく読まないときもあるのだけど、最低でも二冊の本が手元にないと新幹線の中では落ち着かない。

 

これらに加え、オプションで、品川駅で買うおにぎり(あのおにぎり屋の昆布生たらこはたまらん美味い)か、気分がいいときは缶ビールを携える。そうすれば、準備は万端。二時間半の小旅行が始まる。

 

 

さて、どこぞの心理学者が分析でもしたのだろうか、この二時間半という時間が絶妙だ。二時間15分でも二時間45分でもしっくりこない。間違いなく二時間半が最高だ。例えば、品川から乗車した場合、疲れていたなら新横浜から名古屋まで1時間半ほど眠りにつき、冴えた頭で1時間の読書。もしくはいまの僕のように集中力を持って仕事をするには2時間ぐらいがちょうどいい。残りの30分はタバコを吸ったりしていれば、いい塩梅で過ぎる。一本の映画を観ることもできれば、往復で一冊の本だって読める。ただし、これ以上長い時間だと腰やらが痛み出し、足のむくみもひどくなる。完璧に近いのが二時間半なのだ。

 

この二時間半は誰にも干渉されない。一切の人間的関係をふりほどき、自由に過ごせる時間が二時間半もあるなんて、これは本当に貴重なのだから、いつも何をしようか、と頭を巡らせては楽しくなる。

 

では他の人たちはどんなことをしているのだろうか。車内を見渡してみる。

 

A席に座る隣の男は、ずっとPCを開いてはいるが、ほとんどスマホでゲームをしている。新幹線でPCを無駄に開くのは、オープンテラスでカプチーノを飲むのと同じ自慰行為のように思う。でもそれもいいだろう、自由なのだから。二つ後ろのD&E席では、カップルが手をつなぎながら彼女は眠りについている。肩に彼女の頭を乗せた男は、物憂げに外の景色を眺めている。と思えば、彼女も眼を開けているではないか。前の席をじーっと見つめている彼女。この二人には何か問題がありそうだ。そこから三つほど後ろの席では、ご婦人方6名が席を回転させてキャッキャキャッキャと女子高生のように騒いでいる。が、4人は本当に笑っているが、残りの二人はそうでもないように見える。忖度か。ここにも小さな社会があるようだ。その後ろの席の若い男性客が舌打ちしているのも、まぁ頷けたけど。悲喜交々。スポーツ新聞を巧みに折り返しながらお約束のワンカップを飲む伯父さん、もう夜なのに本格的な化粧をし始めている30半ばあたりの女性、フルリクライニングでいびきをかきながら足を放り出すサラリーマンなどなど、そのバリエーションは実に面白い。

 

たった1車両の中にこれだけ色々な人が同乗し、同じ行き先を目指す。彼らには新幹線から降りた後、それぞれのドラマがあるのだろうが(できれば一人一人を追いかけてみたい)、それよりも何よりも、この皆の脱力感はなんなのだろうか。まるで我が家のように過ごす人々が多くいるのは何故なのか。リラックスするのはいいのだが、明らかに度を越した人たちもいる。例えば靴を抜いで靴下で過ごす男性や、口を開け隣の人にもたれかかりそうになりながら脚を開けて寝るご婦人。いやいやここは家ではないのだよ、とおもわず起こしてあげたくなるほどだ。気をぬくのはいいが、他人の目を忘れないでほしいと、切に願う。そういう不快感を招く行為さえなければ、皆それぞれ好きにこの二時間半を楽しんでいるように思う。おそらく、皆も僕と同じ思いなのだろう。ここは社会の中にあるエアポケット。東京へ闘いに行った帰り道の達成感、慌ただしい日々の中で唯一と言っていいほど誰にも干渉されない開放感、この二時間半には、よくもわるくも、だとは思うが、多くのドラマが潜んでいる。

 

では、この快適でドラマチックな二時間半を、よりよくするためにはどうすればいいのか。前から気になっていたいくつかの改善点を検討してみたので、ぜひ皆さんも一緒に考えて、これをJR東海と西日本に投げかけてみませんか?

 

「肘掛け争奪戦の終焉」

席と席の間にある“肘掛け”は一体誰のものなのか、は大問題だ。“窓際支配族”と僕が呼んでいるA席、E席を好む人たちには、どうやら支配的な人たちが多い気がする。奥に座っているからなのか、右も左も肘掛けを使い、そういう人はだいたい脚の組み方も横柄だ。B席の人がいるときは、やはり両方の肘掛けをその人にあげるべきだし、D席に人がいるときも窓際の人は中央の肘掛けを遠慮するのが賢明だと思うが、支配族の性格上難しいらしい。であれば、すべての肘掛けに優先順位を示せばいい。数年前、仕方なくB席に座っていた僕は左の肘掛けを10分ごとに奪い合う激戦を繰り広げたことがあるが、最後にC席の乗客から「おいっ!」と切れられてしまい、すでに窓際支配族が支配下に収めていた右側の肘掛けも失い、腕を組むしかなくなった苦い思い出がある。もはやトラウマだ。であれば、3列のところは、肘掛けをBの人のために譲ればいい。“B専用肘掛け”と記すだけでいい。同じく2列の肘掛けは“D専用”とすれば、もめ事も、無駄な心理戦も無くなるだろう。

 

「車内販売のエンタメ化」

なぜ、あのように何かを諦めたかのような画一的な品揃えなのか。そしてなぜもっと売っているものをしっかりとPRしないのか。売り子にも覇気を感じない。二時間半の小宇宙ともいうべき車両の中は、いわば現実の中の非現実なのだ。しっかりと販売意欲を持てば、必ず車内販売の売り上げはあがるし、僕らもより快適な旅を楽しむことができる。例えば、新大阪→東京間なら、京都、名古屋、静岡、横浜の本当に美味しいものを売ればいい。抹茶ソフトでも、みたらし団子でもいい。そうだ、いっそのこと、セブンイレブンに業務委託すればいい。他のコンビニエンスストアを置き去りにするほどの企業努力を惜しまないセブンイレブンであれば、車内販売をもっと楽しく、もっと美味しく、してくれるだろう。または、それこそアーバンリサーチさんのような企業が参入すればいい。仕事という闘いや、旅行という遊びから帰る人たち、向かう人たち、その人たちの心理状況を踏まえて販売すれば、新たな収入源になって、新幹線全体のサービスアップにも繋がるだろう。アーバンリサーチさん、ここは一肌脱いでもらえませんか?

 

「サイレント車両の設定」

よく見る光景のひとつに、子供が泣きじゃくって大変そうな家族がいる。僕はいつも音楽を聴いているのと、子供は騒ぐものだと思っているので、なんとも思わないが、時にそれを咎めるような態度をとる輩がいる(ま、そういう人に限って、靴脱いでリラックスしていたりするんですけどね、あなたの方が不快ですよ、って話ですよ)。そういう輩には、グリーンに乗れよ、と思うが、そこまでの経済力がない人も多い中で、静かに過ごしたい人のために設定してあげればいいと思うんです、子供達が乗れない車両を。その方が、他の車両で、子供達は目一杯泣けるし、大変そうな家族も気軽に過ごせる。ま、サイレント車両があっても、僕は別に乗らないけどね。

 

 

 

とまぁ、好き勝手に書いたわけですが、一日の中の貴重な二時間半を過ごすわけです。僕は素敵な時間だと思いながらも、人の卑しさというか醜さが見える時間でもあり、いつもなんとも言えない感情にかられるのです。あの狭い車両はまさに日本の社会の縮図であって、研究対象としてはとても面白いと思うのです。

 

 

好きも嫌いも詰まったドラマチックな二時間半。皆さんも次に乗る時はぜひまわりをじっくりと見回してみてください。スマホをみているよりも、新幹線の中は気づきと面白さに溢れていますから。

 

あ、そろそろ名古屋に着きますね。今日は新横浜から名古屋の間でこちらを書きました。この名古屋から新大阪の一時間、僕は二冊のどちらかを読みながら居眠りしたり、贅沢な時間を過ごしたいと思います。それではまた。

 



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Profile

  • 岩井 祐二IMA:ZINE 代表取締役社長

    西日本の情報には精通しているつ・も・り♡の京都府出身の41歳編集者でありつつ、大阪を揺るがす話題のショップとして瞬く間に世に躍り出た【IMA:ZINE】の代表。大阪発のファッション誌カジカジの編集長を12年勤めあげた経歴をもち、あだ名は前職からの由来で局長(キョクチョー)。新撰組はもちろん関係ない。2018年11月には店舗と同名の雑誌を発行予定。