Look Book Cook Records No.019

日々のインプレッションを画像と文で紹介するノンスタイルの連載です。

下北沢エスプレッソBARの秘密

10.9, 2018

桑原 茂一
  • essay
  • travel
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店の名前を、BEAR POND ESPRESSO という

下北沢で81年間続いた駄菓子屋さんがあった。
その店主の大月文江おばあちゃんが引退するという。
そのパーフェクトなタイミングで
下北沢の歴史を引き継ぐ
伝説の「エスプレッソ・ラボ」が誕生した。
オープンは、2009年4月26日のことである。

 

さりげない門構を余所に、
みるからにいわくありげなそのカフェは、
下北沢風のようでもありながら、
どこかこの街には場違いな風情を醸し出していた。

 

そう感じたのは
尋常ではない数の白人客の出入りに、
たまたまそこに私が遭遇したせいかもしれない。

 

旅慣れた白人たちの嗅覚は
その街ごとに必ず存在する
イケてる場所を外さないからだ。

 

出会いは偶然ではない。僕は必然だと思う。
お互いが呼んでいるはず katsu

 

確かにこの出会いは必然なのかもしれない。
偶然通りかかって一杯飲んだエスプレッソが
そう思わせたのだから。

 

更に、店主が偶然にも必然にも偶有性的にも
私のこれまでを知っていて話が弾み意気投合し、

 

店主を、” katsu “と呼ぶことになった。

 

エスプレッソはライフスタイルだ。
僕は飲んだ瞬間にエネルギーが湧き上がって、
何かが起こるようなものを作りたい
katsu

 

katsuは、まさにこのセリフの似合う男なのだ。

バリスタは腕が命。僕は特別なクリームを塗って、トレーナーもつけている
が、いくら気を使っていても、手は豆だらけで、筋肉もかなり張っている。
店が混む日は腕が腫れ上がるので、帰宅の際はサポーターを巻いて休ませている。
katsu

 

日々懸命に決して手を抜かず
一杯のエスプレッソに魂を吹き込む。
この几帳面さと持続力が
下北沢に生まれた
新たな名所の存在理由だ。

Gibraltar / B.P.E first introduced Gibraltar to Japanese Customers.
ジブラルタル : ギミ・コーヒーのジェニファー・ブライアントから伝授された一杯。
ジブラルタル・グラスにエスプレッソとスティーミング・ミルクとの絶妙なバランス

 

思わず ” 唸る ” 旨さ。
価値を決めるのは受けてだが、この値段でこの味、この至福の喜びに向かう敵なし。
この境地にはもう作り手に平伏すしかない。
そうか、一杯のコーヒーに美味さの頂点はないのか。
コーヒーの世界はまだまだ無限に広がっている。

 

では、一体誰が、この世界に新たな美味さの革命を起こすのか?

Redeye
レッドアイ:ニューヨーク名物、
エスプレッソとシングルオリジンコーヒーを合わせた目覚めの一杯。

Espresso
エスプレッソ:最初はスパイシィでソルティ、
後からダーク・チョコレートの甘みを感じる。
カップの縁に付いた「エンジェル・ステイン」が特徴。
BEAR POND ESPRESSO

 

 

エスプレッソと私

 

その昔、トノバン(加藤和彦様)に連れられ、
当時都内に数件しかなかったフレンチやイタリアン・レストランで、
エスプレッソの奥深い苦味の世界に遭遇し嵌った。
その後幸運にも1977年からCOMME des GARÇONSのコレクション選曲を担当するようになり、
1982年から1997年までは、まるで季節労働者のように年四回パリに出向くことになった。
ご存知のように、パリはエスプレッソを初めとするカフェ文化の街。
しかし、コレクション選曲の任務のパリとあっては、ショーが終わるまでは日々緊張の連続。
覚醒するエスプレッソはまさに気合の一発!でもあった。

 

で、あれから20年。忘れていた覚醒のエスプレッソに再び遭遇したのだ。
katsuのエスプレッソにはkatsuにしかない強烈な個性の味を感じる。
美味いだけではない何か?
その謎に惹かれ数回会ってシャドーボクシングのような独白パンチを浴びた。
上等に申すなら、katsuの生き方はワイルドだ。
まるでカウボーイが馬に跨り荒野を駆け抜けるように、
katsuはMotorcycleに跨り都会を駆け抜ける。
うるせ〜んだよ、そのマフラー、と怒鳴りたくなる衝動を飲み込み、
エンジンを吹かすように、katsuの半生を振り返るなら、
日本での広告業界を皮切りに、どうせやるなら本場アメリカの広告業界だろうと、
30も過ぎた頃、ご夫婦で渡米し、数年かけて、アリゾナからニューヨークへ、
と同時に、広告業界から流通のFedEXへ、それぞれの世界で栄光を勝ち取るが、、、

 

ニューヨークではコーヒーの神様たちと知り合う

katsuがイーストビレッジに住んだのは
1996年から2008年まで出そうだ。

 

その間、2001年に、ナイン・ストリート・エスプレッソが
9丁目にオープンした。

 

そこは、ご夫婦の暮らす10丁目のワン・ブロック下、

 

NY初のナイン・ストリート・エスプレッソは
katsuの人生を一変させる
ターニング・ポイントの場でもあった。

始まりは、「 パブリック・カッピング 」という試飲会。
そのカッピングは、「 カウンター・カルチャー 」という
変わった名前のロースター(焙煎業者)が2006年くらいから始めたそうだ。

 

「 カウンター・カルチャー 」という変わった名前、
では、katsu なくね、
私の人生の真ん中にある精神なんだよ。(余談)

 

で、katsuが凄いのは、そのカッピングで豆の産地を全部当て、
なんとあの、ニューヨーク・タイムズ でこいつは一体何者?と紹介され、
話題の記事になり、瞬く間に、ニューヨークのバリスタ界で、
katsuは有名人になったのだ。

 

そして川が流れるように、「エスプレッソ・ラボ」でのトレーニングが始まり
いつしかエスプレッソの世界が

 

katsuの人生のすべてとなっていった。

ニューヨークで学んだのは、「お客に合わせるな!」
自分を信じて自分の味を出すこと
katsu

自分はカウボーイ。
どこに獲物がいるか探れ。
お前らはカウボーイになれ。
それがFedEXの教えだった
katsu

 

FedEX
(フェデックス・コーポレーションは、空路や地上で、
重量貨物やドキュメントなどの物流サービスを提供する世界最大手の会社である)

 

「 何でそんな英国人みたいなカッコしてんの?」

 

” えっ?俺はいつもそうだよ、紳士だから ”

 

と言って、自分の足元を見るともう笑うしかない。
全面エスプレッソの粉だらけ、勢い良く粉をはたくと

 

「カウボーイみたい」

 

” そうだよ。表は紳士だけど、心の中では燃えてるから ”

 

それ以来、katsuは、ニューヨークのバリスタから

 

「 エスプレッソ・カウボーイ 」

 

と呼ばれるようになったそうだ。

 

BEAR POND ESPRESSO
LIFE IS ESPRESSO
( mille books より引用 )

一番大切にしているのは毎日飲む人。
だから値段をあげたくないから、
なるべく余計なサービスをしたくない。
ベアポンドはラボの一角をあけて
エスプレッソ・バーにしているという発想。
あくまでも工房の一角で、
なるだけ新鮮なものを客に出す。
普通のカフェとはまったく違う。
だから居住空間も最低限しかない。
katsu

新しい味を追求するため、毎日細かくデーターを取る。
今日の天気、豆の量、圧力、水温、抽出時間、等など。
エスプレッソには科学的な理論がある。そして明快な技術がある。
でもそれを越えるのが理想
エスプレッソ、これしかない。
複雑でないからこそ、やることをフォーカスして
深めていける
katsu

chisakoさん
妻は、仲間であり、パートナー
katsu

 

元スタイリストだったというchisakoさんの佇まいが
そのままNYのイーストビレッジなんだな。

 

実際にそこに長く住んだ人の醸し出すムードは
科学では説明できない人間の魔法だと思う。

 

そういえば、昨今、テレパシーをファンタジーと呼べなくなったようだ。
「ついにテレパシーの正体が判明!量子もつれ効果とは・」

 

日々新たな発見が謎が飛び込んでくるが、
大概はちんぷんかんぷんのまま
そこに放り出されて終わる。
後味は空っぽな心。

 

期せずして、偶さか、そんな雑念に惑わされ時間を無駄にするなら

 

私は、一杯のエスプレッソを飲みたい。

自分は80%の人生を生きてきた。
それは人生に対してなんて失礼なことをしているんだろうと
katsu

 

誰もが100%で生きたいと願っている。多分。

 

そうさせない理由を並べる前に動け!
動けなくなる前に動け!

 

あれをしておけばよかった。

 

そんなセリフを臨終の前に吐くぐらいなら

 

動け!

 

これって、自分に喝を入れてます。

 

katsu のお陰です。

 

一杯のエスプレッソのお陰です。

 

魂を飲みに行こう。

 

動け!

 

画像・文
初代選曲家 桑原 茂→

 

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情報

このコラムをご覧になって気になった方は、是非、この本を古本屋でお探しください。
とても元気をもらえますよ。

 

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Profile

  • 桑原 茂一

    初代選曲家、毎週金曜日夜11時Mixcloud PirateRadio(海賊船)、 創刊1988年 free paper dictionary編集長