Look Book Cook Records No.32

LBCR in Paris その第二回
カール・ラガーフェルトの逝去のニュースで口火を切った前回の第一回目のパリ報告だったが、
ここからはパリ到着から帰国までを順を追って、あくまでも私的な感想を綴ってみようと思います。
タイトルも模様替えして「パリは燃えているか?」削除。
題して、「パリはそっくりそのまま美術館」

3.7, 2019

桑原 茂一
  • art&culture
  • travel
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早朝5時、シャルル・ド・ゴール空港に到着。

スコーン・カラーン・コローンと誰もいない感じの入国審査付近に軍服姿のガードマン?数人がたむろしている。

ここは地の果てか?羽田からパリ行きのフライトで一睡もできなかった所為で幻覚でも見ているのだ廊下?
フリーペーパーをぎっしり詰めたトランクがふたつもあり、少し緊張して黒縁のメガネを取り出そうとしたら、
いいから行けの合図に拍子が抜けた。で、途中迷路に惑わされたがなんとか荷物に連行されタクシー乗り場へ向かう。まだ薄暗い早朝のタクシー乗り場も同じく空気は冷たく重い。ストレスで着膨れした年齢不詳の女性がキビキビとだらしなくタクシー乗り場を仕切っている。笑顔で挨拶しようとする間も与えず、あのドイツ車に乗れと指図された。ボンジュールもメルシーも Au revoir も笑顔も、この地の果てには漂ってはいない。まるで生まれ変わったらここへ来てしまった。とでも言い訳したくなるような殺伐とした空気に私の記憶は真っ白のままだ。が、思考が止まると本能が動き身体が動く。サン・ジェルマン・デプレにあるホテルへ直行した。速い。速い。どんどん加速する。フランスのタクシーの最高時速は?つまり速い。闇の中をタクシーがひたすらに突っ走る。見たことのある風景が将棋倒しのように記憶を呼び起こして行くパリの街は綺麗だがパリまでの道のりは殺伐としているのだ。闇は開けることもなくホテルに着いた。ぐっすり眠っていた夜中のレセプション兼ガードマンのこれ以上ない不機嫌な顔を引きつった笑顔で受け止め予約のある旨を伝えるが、君の予約は昨晩だったと詰め寄られ、その分も払うから今はともかく部屋を用意して欲しいと懇願し、ずっしりと重いトランクを一人で三階の奥まった部屋へ連行するが部屋番号を聞き間違えたのか鍵と部屋が合わない。日本のホテルとは勝手が違う小さなエレベーターを手動で開けたり閉めたり更には真っ暗闇の部屋の中で明かりを灯すカードキーの差し込み口は一体何処なんだ?と部屋の電話でレセプションへ連絡するも無音のまま繋がらない。電話を優しく撫で回し遂には擦ってもみるが原則的には出るはずのものがどうしても出ない。仕方がないから自らレセプションと部屋を何度かループするはめになり青息吐息ついでに不整脈もあることを思い出す。結果、エビアンと照明を確保し、広いベットがドカンと置いてあるだけの部屋に安堵し熱いシャワーでほっと一息。私はパリのホテルの壁紙の苦い渋さが好きだ。きっと今夜は眠れるだろう。気を取り直し記憶を弄り、最初にParisの空気を味わうならここだと「 LES DEUX MAGOTS 」へ向かう。

三歩、歩いてカシャ!

四歩、歩いてカシャカシャ!

目が追う対象をそのままシャッターが降りたら便利だが、私はそんな未来のカメラを生きて扱うことはないなぁ〜なんてパリへの高揚感でシャッター音は止まらない・うん?いったいこれはなんだ? で、またもやカシャ!

今更言うまでもないがパリは街全体がギャラリーでも美術館でもある。つい見惚れている間に似たような景色に繰り返し繰り返しこれでもかと道に迷う迷子になるパリ、それが楽しいパリの魅力だ。と呟くのも今回はこれまでの、comme des garcons コレクション選曲で訪れる仕事するパリとは大きく異なるからだ。緊張感から解放された自由な心のパリを訪れたのは初めてなのだ。

パリの美しさに圧倒される。それは生きることへの熱量を蘇生させる為の確認でもある。

世界で一番好きなダンサー、フレッド・アステアがショーウインドウで踊っている。

帰って来たんだ。記憶の中に仕舞い込んでいた懐かしいカフェに鎮座するモニュメントを見上げ微笑んだ。
変わってないがやはり変わった。高い天井はそのままだが抜けるよな開放感が消えた。あれほどシックでクラッシックだった佇まいがなんともピカピカに新しいのだ。ほぼ20年余りの歳月は私の記憶とマッチ・フィット・アグリーメントしない。

パリでの最初に食べたかった朝飯がこれだ。Cafe Creme (通称カフェオレ) SW(サンドウイッチの略だろう)Bag(バケットの略)Jambon(ハム)バケットにはバーターが塗ってある。素材のどれをとってもこの店の伝統が生きている。と言いたいところだが・・小麦もバターもハムもコーヒー豆もミルクも長い伝統を受け継ぐ支える仕入先が当然あるはずだ。年々売り上げが上がれば生産が追いつかない事もあるだろう。利益を優先すれば直接味に降りかかってくる。私はこの隣の 「 Cafe de Flore 」は過去に数度しかお邪魔していないが、私の友人はFloreの方がより文化的なカフェだとご贔屓にしているようだった。言われてみれば確かに、「 Les Deux Magots 」 の方は日本では東急百貨店が誘致したように、もしかしたら大手資本がバックアップしているのかもかもしれない。ま、あの頃と大きく違うのは日本と同じく、こうした老舗のカフェにも中国や韓国からのアジアからの観光客が押し寄せていることだ。私も一人で行くと、大抵、彼らのすぐ側の席に案内されるが、かつて日本人がそう言われていたように彼らも自国にいる時と同じようにパリでも振舞おうとする。しかし他国に旅するならその国の文化を尊重することが基本的な旅人のマナーだと私は思う。で、ある日、そのフロールで一人朝食のオムレツを食べていたら、隣のアジア村テーブルからボソボソとした呟きが聞こえて来た。よくよく耳を澄ましてみると同じ日本人だった。その若い四人の学生たちは言葉の問題で気後れしているのか誰一人顔をあげる者はおらず俯いて周りから隠れるように縮困って朝食を食べていた。彼らの醸し出すムードがあまりにも切なくて思わず、” ジャパニーズ・ジェントルマン・スタンドアップ・プリーズ “と叫びたくなった。確かにフランス人から見たら中国人も韓国人も日本人も見かけの違いはほぼ分からないであろう。しかもどの国のアジア人も言葉のハンディーギャップの問題は同じだと思う。ただ声が大きく集団で行動する人たちの方が、私たち日本人に比べ、フランス語が話せないことへのコンプレックスは少ないように感じた。謙虚さや客観性の捉え方にも問題はあるが、それもやはり文化の違いだと思う。それぞれが自覚を持つほかはないのだが、願うならば、文化の違いをおおらかな心で受け止める精神を会得することが、明るい未来を描くには何よりも必要なことだと思う。なんて、偉そうなことを言っているが、滞在中のある日、この老舗のカフェがふたつとも満員で、じゃ、近くに私たちがよく行くカフェがあるからそこにしましょうと、パリに長く暮らしている友人に連れて行かれたカフェは、「Les Deux Magots」 の真裏にあった。ま、ご覧のように見かけはいたってどうということもないカフェだったから店の名前も記憶にないが自動ドアや店内エレベータを導入していたことから、雰囲気よりは実を取る経営方針なのかもしれない。

今回何度かアドバイス頂いたパリの事情に詳しいとてもセンスのいいチャーミングなミセスOさんとのミーティングは夕方だったこともあり、彼女のオススメのブルゴーニュのワインで乾杯した。で、検証はしていないがワインを飲むなら老舗のカフェよりも、ここは安くて美味いのではないだろうか?しかもOさん曰く、ここのサラダのドレッシングは今時珍しく古典的で絶品だとか、勿論、ワインもチーズの品揃えも当たり前に美味い店というのは商売に自信がある証拠だと思う。パリのあきんど(商人)はある意味大阪のあきんどに似たところがあるのかもしれない。実はパリも貪欲に実を取る本音の商売人たちがしのぎを削る街なのかもしれない。ふとそんなことが頭をかすめ、調子に乗ってチーズの盛り合わせまで頼み、美味い美味いの連発で杯も進み、気がつかなかったが、私たち二人の日本人の声は杯を乾す度に音量が上がり、通常会話40デシベルから気がつくと80デシベルぐらいまで上がっていたのではないだろうか?突然、隣のフランス人のおばさまからから、あなたたちの声が大きくて仲間の会話が聞き取れないから、静かにして!っと怒られた。その瞬間!中国人や韓国人のマナーを云々する資格はまったくないと私のモラルの針はゼロデシベルへと振り切れたのであった。で、そそくさと私たちは席を立ち、本来なら他に約束があったはずのミセスOさんご推薦の小籠包「Petit Bao」を今ならまだそう並ばずに間に合うとレアール界隈へ

 

つづく。

 

画・文

桑原茂一


情報

 

「Les Deux Magots」
https://en.wikipedia.org/wiki/Les_Deux_Magots

 

” ジャパニーズ・ジェントルマン・スタンドアップ・プリーズ “
https://youtu.be/wijrWMd9wvQ

 

小籠包「Petit Bao」

 

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Profile

  • 桑原 茂一

    初代選曲家、毎週金曜日夜11時Mixcloud PirateRadio(海賊船)、 創刊1988年 free paper dictionary編集長