贈り物は突然に。Vol.2

例えばタカハシの食卓を支配してみたい

人間には「欲」というものがある。食欲、睡眠欲、性欲、そして実は「相手に贈り物をする」という行為も、“あの人の人生に関わりたい”という欲の1種ではないのかと思った。

4.20, 2018

Columnist:Aya Matsuo
  • food&liquor
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ほどほどにすっきりしていて贈り物に悩むタカハシ家(イメージ)

ここにタカハシという人がいるとする。

タカハシは「程よく順風満帆」な人生の人である。

ほどほどに頭が良く、

ほどほどにスポーツができて、

割といい大学に入り、

きちんと有給が取れる会社に就職。

顔もほどほどによく、性格も穏やか。一人暮らしの家はほどほどにおしゃれで、掃除洗濯家事もほどほどにこなしている。

さて、こういうほどほどに満足した生活を送る人ほど贈り物するのは難しい。趣味も良いし貧乏でもないから欲しいものは自分で買ってしまうだろうし、「あいつは今、これが最も好きだ」というわかりやすい情報をつかみにくい。あと偏狭的な趣味もないので「あえて・狙った」的なプレゼントも難しい。

もちろんタカハシのことだ、きっと何をあげても爽やかに喜んでくれる気はするが、外してしまった場合、その贈り物は笑顔のままひっそりとしまいこまれてしまう気がする。ああ、せっかくならタカハシの人生にこっそり食い込めるような贈り物を送ってみたい。

 

色々考えた結果、「食」の贈り物が最もタカハシの人生に食い込める可能性が高い気がしてきた。こっそりと、ひっそりと、タカハシの食卓にしのびよる作戦である。

目安として、パエリヤくらいはちゃっちゃと作れるのがタカハシ。

いくつか方法はある。

1、調味料セットなどで味を支配する

 

2、キッチングッズで物理的に支配する。

 

3、鍋セットなどでその日の食卓を支配する。

 

どれも合法的速やかにタカハシの食卓を支配することができる気がする。
だが、2と3は実際に現地調査をした上、台所の間取りを把握する必要がある。
たとえどんなに便利な鍋でも、しまうスペースがなければなんなら実家に移送される可能性が高まる。またこちらの邪な意図もできれば探られたくない。
あくまでも爽やかに受け取ってもらえて、かつ今夜から早速食卓に食い込めるもの。

であればやはり調味料か。

 

だが塩や醤油など保存の効くものは、案外開封されずに保管される恐れがある。特に塩はすぐ開けなくていい安心からから、そういえばうちでもいつまでもストックルームに置きっ放しだ。

場所を取らず、ある程度早めに使う可能性があって、どんな食生活でも便利なもの。

 

閃いた。

 

タカハシに今回贈るべきものは「出汁」である。

味噌汁によし、煮物によし、鍋に良し。

ほどほど料理をする人に「便利で美味しい出汁」をあげることは、料理が苦手な友人宅にピザを宅配するくらいには喜ばれるはずだ。

 

ああ、今夜のタカハシ家には、美味しい味噌汁か鍋が加えられることだろう。

 

そして先ほど、タカハシからメールが届いた。

「プレゼントありがとう。今イタリアンにはまっているから、もらった出汁で和風のブロードを作ったよ」

 

…ブロードってなんだろう。なんだかこちらの予想とはだいぶ違う料理になったようだが、とにかく今夜あの出汁がタカハシの胃袋に収まったのは事実である。

 

こうして「タカハシの食卓を支配する」贈り物ミッション、完了したのである。
(ちなみにブロードとは、イタリアンの出汁のことらしい)

▼タカハシみたいな人に出汁を贈りたい人はこちら

 



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Profile

  • 松尾 彩Columnist

    フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。また猫についてゆるく語る「ネコテキ」を小学館「しごとなでしこ」にて連載中。夫婦料理ユニット「サイトウのゴハン」レシピ担当。