ヴィンテージ徒然草 Vol.1

自分で着れない服

自分自身も既に十分にヴィンテージなのはご愛嬌。そんな私が気まぐれに蒐集したヴィンテージのお話をつれづれなるままに。

4.12, 2018

DJ、プロデューサー:田中 知之 (FPM)
  • fashion
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さて、今回からこちらでコラムを書かせていただくことになったのですが、初回は古着のお話を少々。

 

最近はアメリカ以外の国、例えばヨーロッパ諸国の古着が面白くて仕方がありません。アメリカの古着は、もう長らくここ日本でも人気が高く、相当レアな品物も含めての発掘〜研究が進んでおり、ある程度相場も決まってしまっています。その一方、イギリスの軍服やフランスのワークウエアなどは、まだまだ見たことのない品物も沢山あり、世界的に相場も定まってないことが多く、今後高騰が期待できる一着も今なら安く掘り当てるチャンスがあるからです。

 

これは古着に限らずですが、ヴィンテージの蒐集家ってやつは、人も羨む珍しい品物をいかに安く手に入れるかということに執心するものです。更に古着に限って言うと、サイズという問題があり、気に入った一着を見つけても、それが自分のサイズじゃない場合も。まさにシンデレラのガラスの靴。恐ろしく珍しい一着が破格の値段で売られているのを見つけたのまでは良いのだけれど、それが全く自分が着れないサイズであったということがままあります。しかし、私の古着購入のセオリーで”自分では着れない服”は買わないという鉄則を設けています。たとえ自分が着れないサイズでも、相当なお値打ち品や宇宙レベルのレア物を見つけた場合は、トレードや転売用に買っておくというのが一般的なコレクターの感性なように思いますが、私はそれを禁じ手としています。これはゲン担ぎの意味もあって、そこで買い物運を使い果たしてしまわないようにとの考えからです。

 

でも先日、遂にその禁じ手を破ってしまいました。

これは1920年代にフランスで製造販売されたハンティング用のオーバーベスト、つまりハンティング時にジャケットの上から着用する為のベストです。どうです?  見たことのない風変わりなデザインでしょ?  しかも今から90年前の物とは思えないほど素晴らしいコンディション。試着くらいしかされたことのないデッドストック品。しかもおっかなびっくり尋ねたお値段も非常に現実的なプライスでした。

この時代の服、特にベスト(フランスではジレと言いますね)はヨーロッパとは言え、当時の方が今より体格的に小振りだったので小さいサイズがほとんどです。でもこれはオーバー・ベストだから元来作りが大きく、薄手の洋服の上からなら私でも着こなせるサイズでした。だったら禁じ手を破っていないんじゃないの? って話なんですが、、、、。

実はこのベスト、構造的に一人では絶対に着れないんです。脇下にファスナーとフィット感の調整用のベルトが付いた、プルオーバーのタイプなんですが、どう足掻いても脇のジッパーを自分で締め上げ、更にベルトを開け閉めするなんてできっこないデザインなんです。なるほど、ハンティングは当時の貴族やお金持ちの趣味でもあったわけで、このベストの元の持ち主も洋服を着替える時にそれを介助する召使いがいたのでしょう。というか、そんな金持ち対象の面倒臭いデザインが災いして売れ残り、デッドストックとなって90年後にピンピンの状態で私の手元にやってきたのかも知れません。いや多分そうです。

 

かくして私は “自分では着れない服”を買ってしまった訳ですが、案の定いまだかつて購入時の試着でしか着用したことがありません(その時は古着屋の店主がファスナーを上げ、ベルトを締めてくださいました)。このまま私のクローゼットで再びデッドストックとなり、私がこの世を去った後、遺品として整理され、誰かがまた綺麗な状態で手に入れて、でもやっぱり一人で着れないから着用される機会もなく、、、これが永遠に続いていく様な気がします(笑)。

 

 

 

川崎にあるヨーロッパ古着店「ストレイシープ」にて購入。店主の世田さんがプロデュースして、全国の古着屋さんが集まったイベントの目玉商品として仕入れたのがこのベスト。

アーリーセンチュリー特有の風合いのあるコットン・キャンバス地。シワも味があったので、敢えてアイロンもかけずに。

1925年から製造を開始したVITEX®の最初期のファスナーが付けられていることから1920年代後半に製造されたベストと推測。

The Motorist がブランド名なのか、ショップ名なのでしょう。黎明期に差し掛かった自動車用のウエアの製造がメインだったと勝手に想像。更にSPORTS_HANTING_COATS の文字とパリ17区の住所が記されている。

まるでドラえもんの様なポケットが前身頃に付く。中にはライフル弾用のホルダーが並ぶ。

Profile

  • 田中 知之 (FPM)DJ、プロデューサー

    1997年『The Fantastic Plastic Machine』でデビュー。オリジナル作品の他にアーティストのプロデュースやリミックスを多数手掛ける。DJとしても国内全都道府県はもちろん、世界約60都市でのプレイ実績を誇る。活動の幅は音楽のみに留まらず、過去には大手アパレル企業でMDとして、また某ファッション誌でエディターの経験もあり、時計や車などへの造詣も深い。特にヴィンテージ・ウェアのコレクター/マニアとしては知る人ぞ知る存在である。

Information

  • STRAYSHEEP

    神奈川県川崎市川崎区小川町4-1 マッジョーレ2F

    営業時間 : 営業時間 11:00~20:00(火曜定休)

    TEL : 044-201-4788

    URL:https://ameblo.jp/straysheep-kawasaki