アーバンなひとびと Vol.1

第一回 8年間いちばん会っているオトコ、井上社長

「スナックアーバン」に夜ごと集う、奇々怪々で愛すべきお客様たちのものがたり。第一回は井上則人デザイン事務所の井上社長です。

4.11, 2018

スナックアーバンのママ
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みなさん、こんばんわ。スナックアーバンのママです。四谷の片隅に小さなカラオケスナックをオープンして、いつのまにか8年(はやっっっっ!)。最初はお客様がだれも来ない日もチラホラ・・・。シクシク、わたし続けていけるのかしら、なんて悩んだ日もありましたが、それでもまあ、いつかなんとかなるだろうと(←能天気)過ごしていたら、ありがたいことに毎夜、愉快(変人? 奇人?)なお客様が集まってくださるようになりました。この連載では、わたしが出逢えたアーバンなお客様たちを、毎回おひとりご紹介させていただきます。せっかくなのでアーバンで一緒に呑みながら、酔わせていろいろ聞き出しちゃおうと思います。第一回目は、アーバンにほぼ毎日遊びに来てくれている、「社長」ことブックデザイナーの井上則人さんです。どうぞ濃い目のハイボールなど片手に、お付き合いくださいませ(文中の写真は、8年間の思い出コレクションです♡)。

2018年 3月19日 21:30

社長 わ゛んバん゛こ・・・。

ママ しゃ、社長、どうしたの、その声!!

社長 (ガッラガラに干からびた声で)また喘息でちゃってさ、喉がガラガラ。しばらく煙草もやめとくし、きょうは超リトルでお願いします(注:社長の造語、酒を薄めに作っての意)。

ママ 喘息こんなに出てるの、3年ぶりぐらいじゃない? あのときはお客さんもホステスも皆で『赤色エレジー』歌ったもんねえ(注:社長の持ち歌。アーバンのカラオケランキング不動の一位で、社長が体調不良で歌えないときは、みんなで一丸になり歌って順位を死守させておく)。

社長 今回もよろしくおねがいしますよ。

ママ ところで今日は忙しかったの?

社長 忙しかった、会社きて、まず、江口寿史さんの画集の仕事して、そのあと講談社関連の整理して、そこから単行本の調整やって、打ち合わせして・・・・。疲れた。あと医者いって見てもらって、新しいクスリもらってさ。

ママ まあ、行くと安心するもんね。社長も若く見えて56歳なんだから、ほんと色々気をつけてよ。

社長 もう41年、この仕事やってるからねえ。あっという間だったよ。でもさ俺、25〜6歳ぐらいのころからやってること、全然かわってないの。

1985〜6年ごろの写真、社長わけー!

ママ そのころって『写真時代』にいたころ(注:1981年白夜書房から創刊。写真誌をたてまえに、やりたい放題やっていためちゃかっこいい雑誌。編集長は末井昭さんで1988年発禁に)?

社長 『写真時代』のデザインはハタチからやってるから、5〜6年たったころだよね。もうさ、『写真時代』はすごく楽しくて、風俗情報ページ以外は全部やってたんじゃないかな。あ、表紙はやってないけど。

ママ 末井さんが何歳のころだろ。

社長 いちど誕生日会に行ったことがあって、そのとき末井さんが36歳だったかな。俺はたぶん20代前半で、そのころ入ってたデザイン事務所の社長が40代で、「末井ちゃん、若いよな〜」って言ってるのをなんか覚えてるんだよね(笑)。

ママ でもさ、20代前半ぐらいのときって、10歳以上うえのひと、すごく大人に見えたよね、なんだか。

社長 そうそう(笑)。

ママ 社長はどのへんで遊んでたの?

社長 ゴールデン街と二丁目。二丁目は「サザエ」とか、あとはスタッフで入ってた東郷健の店とか。「サタデイ」ってバーで、そこに行けタダで呑めたから。そのころは毎日呑んでたなあ(注:いまも)。

これが『写真時代』

『写真時代』の台割。貴重・・・!

ママ 『写真時代』が26歳ぐらいまで?

社長 そうだね、多分。で、27歳のときに事務所辞めて、一度フリーになって、28歳で自分の事務所作るんだよね。

ママ それが「井上則人デザイン事務所」なわけね。最初はどんな仕事してたの?

社長 単行本やりたくて、ゴールデン街で知り合ったひとたちの仕事を受けてたね。社会学系の本が多かったよ、最初は。そこから単行本は順調に増えて、月に8〜10冊ぐらいにはなったかな。雑誌も『BUBKA』とかやるようになってたし。

ママ そしたらいまみたいに漫画とかカルチャー系とか変な本が増えてきた転機はどこなの?

社長 転機、どこかなあ。友達の東陽片岡(注:『ガロ』でデビューした漫画家、男の哀愁と畳の目を描かせたら日本一)が青林堂(注:ガロの発行元。素晴らしい漫画を死ぬほど作ってくださった出版社)から漫画を出すことになって、それで手塚さん(注:青林工藝舎の社長。わたしが超尊敬する編集者)が初台から酒を持って俺の事務所によく遊びに来るようになって。手塚さんは500mlの酒を持ってくるけどすぐなくなるから、こっちは2リットルを買っておいて・・・。そんなことやってたら10何キロ太ったけど(笑)。

でもやっぱり転機といえば『写真時代』だよね。そういえば『写真時代』終わったあと、俺いちどアル中になっちゃったのね。もうずっと呑み続けてて。そのとき白夜書房のみんなが心配だからって仕事を出してくれたってのが、本当にありがたかったな。

『写真時代』のころ。写真の上にのせる本文の文字色を間違えてしまい謝っている写真。倉田精二さんのアフリカの企画とのこと。

社長 で、そのまま、いままでずっと、あっという間だったって感じ。結局、仕事やってただけなんだよね。もちろん仕事は超おもしろくて、変な仕事ばっかりくる運はあるんだなと思うけど。

ママ やっぱ続けるのって大事だよね。いまってすぐ仕事辞めちゃうひととか、多いっていうしね。

社長 思った仕事と違うとか、やりたい仕事と違うとかはこれまでもあったけど、一番最初っていっぱしじゃないからなんもできないじゃん。でもスキルがないなら、そこで手を動かしてスキルつけなさいよって思うよ。俺も仕事って、結果的に教えてもらったんだなっていうのはあるけど、教わった覚えはないんだよね。ほとんど見て盗んだ。

ママ でもさ、ここまで来たら、何歳までやる?

社長 欲を言えば80歳ぐらいまで。70だと、あと少ししかないから、もうちょいやりたいな。いまだに仕事のレイアウトで悩んで眠れなかったりするけど、そういうのもわりと楽しいし。

ママ とはいってもさ、若いデザイナーさん、いっぱい出てきてるじゃん。負けたとか全然思わないんでしょ。

社長 思わない(笑)。ただ、それほど悔しくなくなったっていうのは、成長したのかなーって思う。

ママ じゃ、最後に聴くけど、悩みとかってあるの?

社長 うーん、いまの悩みは、変な仕事や面白い仕事はくるんだけど、とにかく忙しいってことと、あとはゲームやってて時間がなくなってその場しのぎになっちゃう時もたまにあって、それをどうにかしないとなって・・・。

ママ ねえ、それ悩みなの・・(笑)?

社長 こういうとこも、20代からなんも変わってないな(笑)。

『赤色エレジー』を熱唱するかの日の社長。

今日の社長

・ジャージ
吉祥寺のお気に入りの古着屋で買った。この古着屋でしかジャージは買わない。これは襟が革ジャンから出る感じが気に入ってる、最近いい出物がなくて悲しい。

・革ジャン
20年ぐらい前に購入。ただポケットの中が抜けてるから、そろそろ新しいのを買わないとと思ってる。

・ソフボーイの指輪
毎日しているお気に入り。

・最近気に入っているバッジ
これも吉祥寺の古着屋で。出自がわかないが、おそらくイギリスのもの。

・今日食べた昼食
スタッフに買ってきてもらった松屋のやわらか豚肉なんとかみたいなやつ。

Profile

  • スナックアーバンのママ

    四谷三丁目の会員制スナックのママです。ことしで8年目。好きなお酒は濃い目のウーロンハイ、好きなツマミはイカ刺。