アーバンなひとびと Vol.8

第八回 近所ゆえにすぐに呼び出されてしまう男、向井くん(前篇)

「スナックアーバン」に夜ごと集う、奇々怪々で愛すべきお客様たちのものがたり。第八回は近所の友達、向井くん(しかも前篇)です。

12.4, 2018

スナックアーバンのママ
  • food&liquor
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みなさん、こんばんわ、スナックアーバンのママです。この夏、アーバン・ウエスト(神戸店)の地上げ騒動や思いがけない仕事が重なり、すっかりご無沙汰してしまいました、反省! まじで猛省! 久しぶりの「アーバンなひとびと」、第八回はアーバンの近所に住んでしまったがゆえに、暇になるとわたしに呼び出されてしまう脚本家の向井康介くんです。最寄りのスーパーで食材買って、最近わたしがハマってる9mmの鉄板で肉や野菜を焼きながら、大学時代の思い出話や映画のことなどダラダラ聞いてみました(なので、ところどころ、鉄板の描写があります)。キンキンに冷えた缶ビールなど片手に、どうぞご覧ください。

 

2018年 10月10日 19:30

 

ママ 重いでしょ、それ。

 

向井 重いよ、これ・・・(笑)。人、殺せるよ。

 

ママ でしょ! すでにこの鉄板、7枚は売ってるからね、わたし。

 

向井 こんなの、どこで見つけてくるの・・・。

 

ママ Twitterで流れてきてさ、酔っ払ってたからたぶん秒で買った。これ、6mm、9mm、12mmとあるんだけど、9mmがいいよ。これ以上重いと、たぶん使いにくい。

 

向井 けっこう使ってるんだ。

 

ママ いや、鉄はすごいんだよ。あとで食べたらわかると思うけど。ってか、鉄の話じゃなくて、向井くんの話を聞かないと(笑)。

 

向井 てか、俺でいいのかね、このインタビュー。

 

ママ 完璧に問題なし。でさ、会話のあいだに写真をいれないとなんだけど、向井くんが北京にいたときに遊びに行って、マダム・タッソー行ったじゃん。あの蝋人形とのツーショットを延々挟んでいきたいんだけど、いい?(注:向井くんは北京に留学していたのと、マダム・タッソーで写真を撮りすぎたのでいつか使いたいと思っていた。写真は4年前のものなので若干若々しいです。)

 

向井 いいよ(笑)、好きにして。でもさ、ちかちゃんの回みて、俺も一度でいいからキャバレー行っとけばよかったなと思った。

 

ママ ほんとだよ、もうなくなっちゃうよ。行こうよ。

 

向井 大阪にまだあるんだよね? ミナミに。

 

ママ ミス大阪だっけ。行ってみたいんだよなあ。

 

向井 キャバレーって踊るの?

 

ママ 踊る! 生バンドが入って、ダンスホールがあるのがキャバレーなんだよ。だからすっごく若くて可愛いとかじゃなくて、チークとかジルバとか踊れるひとのほうが人気あったりするんだって。

 

向井 なるほどね。おお、早速鉄板。

 

ママ ほら、ちょっと育ってきていい感じでしょ(注:鉄板のこと)。てかさ、向井くんっていつごろからお酒呑んでるの?

テレサ・テンと向井くん。

向井 大学入ったぐらいからかな。きっかけは失恋なのよ、大学一回生のときに。最初の彼女で、告白されて付き合って。でも俺、熊さん(注:映画監督の熊切和嘉さん)の『鬼畜大宴会』を手伝っていて、それが面白くてずっと行ってたのよ、彼女をほったらかしにして。したらバンドマンと浮気されて。

 

ママ ははは、あるね、その展開!

 

向井 マッド・カプセル・マーケッツのコピーバンドやってたバンドマンでさ。

 

ママ 時代(笑)!

 

向井 それで別れて、そのショックからお酒を呑みはじめたという。

 

ママ 大学って、大阪芸術大学だよね。そもそも、なんで映画のほうに行ったの? だって高校時代は水球一直線でしょ?

 

向井 違うって、ハンドボールだから(笑)。いや、映画はずっと好きだったんだよ。父親が映画好きで、その影響。新しいものが好きなひとだったから、ビデオカメラとかVHSとかベータとか、レンタルビデオ屋の前からうちにあって。それで映画を見るようになって『ロードショー』とか買うようになって。

 

ママ わたしも母親が映画好きだったから、よく映画館に連れてかれたなあ。小学生のときに『パーフェクトワールド』に行って、ボロボロ泣いたのとか覚えてるもん。

 

向井 ああ、じゃあやっぱちょっと世代が下だよね。あれ、俺が中学生のときだもん。あれは、悪くない映画だったよ。

 

ママ ああいうの、いま見直したらどうなのかな。

 

向井 意外と見られると思う。でも、あのころ面白かった映画を久しぶりに見返すと、そうでもなかったってこともあるよね。

ジャッキー・チェンと向井くん。

ママ 向井くんが子供のころ観て覚えてる映画とかある?

 

向井 父親に抱えられて『スター・ウォーズ』を観に行ったのは覚えてる。子供の頃は映画館に行くのが一大イベントだったから。だって車で2時間以上かかるんだもん。

 

ママ ええ、そうなんだ!

 

向井 ただ小学生ぐらいになると、レーザーディスクとかレンタルビデオ屋さんが出てきて、おやじがそれにハマって、いっぱい買ってくるわけよ。だからそれで観たよね。『ターミネーター』とか、すごい面白くて興奮してるの覚えてる。親父が好きなのはアクションとコメディのふたつ、シュワルツェネッガーとか『ポリスアカデミー』とかそういうのばっか観てたね。

 

ママ それが、ちょっとずつ変わったわけでしょ?

 

向井 中学ぐらいから変わったね。変わったっていうか、日本人の監督の映画を観るようになったの。俺はわかりやすくアイドルから入ったのよ。観月ありさとか牧瀬里穂とか宮沢りえとか、いわゆる“3M”が好きだったから。それで『明星』とか買うようになって。その当時、『僕らの7日間戦争』を学校で観たらめちゃくちゃ面白くて。それで牧瀬里穂が出てる映画も観てみようってレンタルビデオ屋さんに行ったら主演映画が2本あって、それが市川準の『つぐみ』と、相米慎二の『東京上空いらっしゃいませ』だったの。それを両方借りて。それだよね、日本映画を意識したのは。2本ともよかったし、牧瀬里穂の存在感がぜんぜん違って・・・。それで初めて監督っていうのを意識したかな。そこから積極的に日本映画を観るようになったの。

オードリー・ヘップバーンと向井くん。

ママ ミニシアターっぽいやつは?

 

向井 大学からだよ。大学で何人かできた友達のひとりに、ふたつぐらい年が上で、東京のデザイナー学校出てから大阪来ましたみたいなやつがいて。彼に、神代辰巳が死んでレトロスペクティブやってるから行かない?って誘われたの。俺は「神代辰巳ってなに?」「レトロスペクティブってなに?」って(笑)。それでポカンとされて、谷町にあった映画館にいって、しかもオールナイト。それがはじめてのミニシアター体験だった。

 

ママ ああ、オールナイトとか行ったね、懐かしいな。

 

向井 それで、あまりの自分の無教養さ加減に恥ずかしくなってさ。地元の池田町では俺がいちばんの映画博士だと思ってたの。それがいざ大学にいってみたら、もうなんかとんでもなく映画観てるやつがいっぱいいて。そっからもうガンガン観始めた。

 

ママ あ、これめっちゃ美味しくない(注:なにか食べた)? 鉄板すごくない? もう火を止めてるんだよ。でもここ触ってみて、熱くない?

 

向井 アツッッッッ(笑)。

 

ママ でしょ、すごいでしょ! 買いたくなってきたでしょ(笑)。じゃさ、そしたら、一番最初に大学に入ってからハマったことってなんだったの?

 

向井 ちょっと長く話すと、とにかく自分が観てなかった映画を、それこそ山下くん(注:山下敦弘監督)の部屋とか熊さんの家とかで観るようになって。

 

ママ あ、ねえねえ、山下さんとはどこで仲良くなったの?

 

向井 一番最初に映像学科に入ったときに同じ班だったの。

 

ママ へーー、気が合ったの、最初から?

 

向井 合ったねえ。大阪芸大って150人ぐらい新入生がいるんだけど、最初のガイダンスでA班とB班に半分づつ分けられるの。その中でもさらに6班に分けられて、その分け方もあいうえお順なの。向井と山下って近いでしょ。で、そのガイダンスが終わったあと、「みんなで喫茶店でも行こうや」ってなって、そのあと最終的に4人ぐらい残ったのかな、そこに山下くんがいて、家が歩いて30秒くらいのところにある寮だけど来る?って言われて、それでノブの家で酒呑んで。そこからだよね、なんか馬が合ったんだよね。

 

ママ でも、こんなに長い付き合いになるとは思わなかったんでしょ?

 

向井 思わなかった。

 

ママ いまは他のひとの作品でも書いたりしてるでしょ? でもいまでも、山下さんの作品はちょっと違うみたいなのあるの?

 

向井 山下くんの映画と、そうじゃない映画っていう感覚はちょっとあるかな。俺の半分は山下くんで出来てるからね。

チャン・イーモウと向井くん。

ママ 最初から、監督と脚本って役割分担があったの?

 

向井 いや、いまでこそ分かれてるけど、当時はどっちが脚本とか監督とか、あんまり関係なかったね。最初に『P』っていう短編映画撮ったんだよ、15分ぐらいの、大学に入ってすぐ。もう封印してるけどね。

 

ママ え、なにそれ、観たいんだけど!

 

向井 もう、どこにもないんじゃないかな。

 

ママ どういう話だったの?

 

向井 ひとりの男の子が世の中が嫌になって、鉄塔の下で服毒自殺するっていう話。

 

ママ ・・・、暗っっっ!

 

向井 当時から、山下くんはカメラとか機械とかに全く興味がなくて、というか、ひとにしか興味がないんだよ。俺はメカにも興味があったから、俺がカメラをやって、山下くんは友達呼んできてどう動いてとか言ってよ、みたいな。ほんとそんな感じでやってたんだよ。

 

ママ でもやっぱ奇跡だよね、そうやってふたりが出会ったっていうのは。そのときからもう、脚本っていうのは意識してたの?

 

向井 そうだね。なんか書いたり読んだりすることは好きだったんだけど、なんか自信がないってゆうかさあ。教養もないし。

MJと向井くん。

ママ そのころ脚本ってどうやって作ってたの?

 

向井 当時だと仲間内で集まって相談して、10何人ぐらいで。でもそんなのまとまるわけないから、とにかく話を聞いて、それを俺が持ち帰ってまとめて。そういうのは嫌いじゃなくて。

 

ママ そうなんだ。まあ、そういうの向いてる気がする、向井くん。

 

向井 それでさ、大学でもシナリオの授業はあるのよ。で4年生のときに、卒論を書くか卒業シナリオを書くか、どっちかを選ぶの。それで俺は卒業シナリオを選ぶんだけど、そのとき担当してくれたのが中島貞夫先生で、中島先生から一通りの書き方を教わったときに、これはちょっと最初から最後まで自分だけで2時間220枚のシナリオを書いてみたいなと思ったわけ。それで書いたの、1年かけて。

 

ママ それは何の話?

 

向井 恥ずかしくてあんまり言いたくないんだけど・・・。

 

ママ えーー、言いなよ!

 

向井 えーーー・・・。自分の地元の街を舞台に、そこでひとりで生きていってる30歳の女のひとの話。ははははは。

 

ママ なんかいきなり大人っぽいじゃん。

 

向井 その女のひとのところに急に親戚のおばさんが訪ねてきて、そのおばさんが親を亡くした全盲の男の子を連れてきて、面倒をみてくれないかと捨てるように置いていかれて、しょうがなく二人暮らしを始めるっていう話。

 

ママ なにか着想があったの?

 

向井 そのころ俺ね、ロマンポルノが大好きだったの。だからそういうのを書いてみたいと思ってたんだよ・・・。

 

 

続きは後編へ!

 


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Profile

  • スナックアーバンのママ

    四谷三丁目の会員制スナックのママです。ことしで八年目。好きなお酒は2杯めのホッピー、好きなツマミはしらすおろし。