アーバンなひとびと Vol.9

第九回 近所ゆえにすぐに呼び出されてしまう男、向井くん(後篇)

「スナックアーバン」に夜ごと集う、奇々怪々で愛すべきお客様たちのものがたり。第九回は近所の友達、向井くん(後篇)です。

12.11, 2018

スナックアーバンのママ
  • food&liquor
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みなさん、こんばんわ、スナックアーバンのママです。ところで、どうですか、前篇を読んでいただいて。伝わりましたか、鉄板の素晴らしさ・・・。いまいち向井くんの話ばかり聞いてしまい、鉄板のことを伝えきれていないのが心残りですが、後篇もどうぞお楽しみください。

2018年 10月10日 21:00

 

ママ ロマンポルノってどうして観るようになったの?

 

向井 それがさっきの話に戻るんだけど、大学に入って自分が無知だってことがわかって、友達からいろんな映画を借りまくって観てたんだよね。けどみんな、なんか得意分野があるのよ。山下くんはアメリカン・ニューシネマ、熊さんはホラー映画にめちゃくちゃ詳しい、柴田剛はデビッド・リンチが大好きで、でも俺はなにもないなって。なにか武器がほしいなって思って、それで阿倍野のツタヤを徘徊してたら、日活ロマンポルノのシリーズがあったの。あ、これ神代辰巳の上映で観たやつだって思って、いろいろな監督がいるなら観てみようと思って、そのうち借りた一本が『(秘)色情めす市場』
っていうんだけど、田中登の。それにドハマリして。よし、俺はこれでいくって思って、とにかくロマンポルノを見続けたの。

 

ママ わたしの友達のおじさんも、最近『(秘)色情めす市場』、DVD買ってたよ。あれ、いま観ても本当にすごいよね。でもロマンポルノのどこが、いちばんかちっとハマったの?

 

向井 やっぱりかっこよかった、俺から観て、すごく。監督とか、描いていることとか。どうしようもないやつもあるけど、その中にものすごいものがあって。それを掘る行為も面白かったし、しかも1995〜96年当時って70年代ファッションがけっこう流行ってたりして、それもあって当時の風俗とかが映画に映ってるのが観られたってのもあるかな。

 

ママ あ、ねえねえ、超うまそうじゃない。でも、もう少し焼きたいよね。なんかしっかり焼くのも鉄板の醍醐味なんだよね。

 

向井 お、おお。じゃ、もうちょっと焼こうか(笑)。

 

ママ オッケ、蓋しておくよ(注:なんと鉄板は蓋付きなんですよ、この蓋のいい仕事ぶり、伝えたい!)。

 

向井 あとさ、70年代フォークが好きだったんだよ。

 

ママ それ、いまでも変わんなくない? 暑苦しい古いもの、好きだよね(笑)。

 

向井 そうだね、好きかも(笑)。

郎平と向井くん。

ママ で、卒業シナリオはどうだったの?

 

向井 それがさ、完成したあとにひとりひとり面接があるんだけど、そのとき中島先生に「これは面白い」って言ってもらって。内容がロマンポルノに準じたものでセックスシーンも多かったから、たぶん学科の賞には押せないけど今期のなかでは一番だって。

 

ママ へえ、やっぱもう違うもの持ってたんだろうな。でもさ、そういう性描写みたいなの書くのは抵抗なかったの?

 

向井 なかったし、むしろ書きたかったよ。まあ、耳年増っていうか、失恋以降は恋愛もしてないし、俺そっから東京出てくるまで7年間ぐらい彼女いなかったもん(笑)。

 

ママ 中2部室感!

 

向井 だから憧れですよ、そういう世界に憧れてるから書いてたんだよ(笑)。でも、それで俺、脚本は向いてるのかもと思って、そこでちゃんと意識したんだよ。で、ノブと映画作り続けていこうと思ってたから、俺はちゃんと脚本を書ける人間になってノブの映画やりたいなって。

 

ママ 山下さんとやってこって思うような転機ってどのへんであったの?

 

向井 えっとね『P』のあと、もう一本作って、それを学園祭の上映会でやったら受けたんだよね。まあ、大学の一回生の終わりぐらいから、俺と山下っていうコンビですみたいな感じに、まわりから見られてたし。

 

ママ 超運命じゃん。

 

向井 ずっと一緒にいたからね。

 

ママ ずっと! 飽きなかったんだ。

 

向井 飽きなかったというか、一緒にいてイライラするんだけど、でもいる、みたいな感じだったかな。付き合ってる説も流れたしね、一回(笑)。

楊利偉と向井くん。

ママ でもさ、ふたりがメジャーに行こうと思うきっかけってなんだったの?

 

向井 それはねやっぱり熊切さんが大きいね、ヨーロッパの国際映画祭で賞をもらったりして・・・、もう、なにそれ!っていう。あんな大阪の片隅で作ってたものが、そんなことになるなんてって。だから、俺らも!って、やっぱりそう思うんですよ。それで『どんてん生活』を卒業制作で作ったぐらいから、あれだよね、やっぱり。あ、美味そ・・・。

 

ママ めっちゃ美味そ・・・、そろそろ食べられそうだよね。でも卒業してすぐ順調ってわけじゃなかったんでしょ。

 

向井 ただ運が良かったのが、ちょうど世界的に日本映画ブームだったの、2000年ぐらいかな。海外の映画祭に日本映画が呼ばれるような時期に、運良く俺たちもひっかかって、いろいろな海外の映画祭に出せたのと、東京国際映画祭がまだそのころ優秀な新人監督の次回作に資金を出すみたいなことをやってて、それに『どんてん生活』も選ばれて、一千万円支給されます、みたいな。東京国際映像文化振興会、みたいなところが出してくれたんだけど。それが与えられたひとは文化庁の補助金も同等の額がもらえますっていうから応募したら通って、それで二千万。でも一本映画作んなきゃいけない。それで作ったのが『バカの方舟』なんだよ。ちなみに『どんてん生活』は270万円で作ってたから、今回は二千万あるからなんでもできるなと思って、二年かけて撮ったの。

 

ママ そのとき何歳?

 

向井 23〜4歳のころ。でもお金はぜんぜん儲かってないからさ、バイトで食いつないでたよね。山下くんはきぐるみのバイトしたり。

 

ママ まだ大阪?

 

向井 大阪。俺は新世界のピンク映画館の受付やってて。その『バカの方舟』っていう映画を作ったあと、どうしようかねって言ってたら、これも運良く、『バカの方舟』を配給してくれた会社でつげ義春原作の映画を作らないかっていう話があって、はじめての外注の仕事。それで『リアリズムの宿』を撮ったの。それまで俺は照明技師とか撮影監督にもなりたくて、脚本も書くし現場では照明もやります、みたいな二足のわらじでやってたんだけど、『リアリズムの宿』の現場で挫折があって。それで二足のわらじはできないなって。

オバマと向井くん。

ママ 両方は厳しいって思ったんだ。

 

向井 そうそう。で、どっちか選ばなきゃなと思って、脚本を選んだんだよ。そのとき偶然、奥原さん(奥原浩志さん)から連絡があって、こんどよしもとよしともの『青い車』っていう漫画を映画化するから脚本一緒に書かない?って。

 

ママ へー、奥原さんってそんなころから知り合いだったんだね。

 

向井 うん、『どんてん生活』のころ、奥原さんも自主映画を撮って出品してたの。いろいろと顔を合わせることも多くて、なんか馬が合って、連絡とか取り合ってたんだよ。で、『青い車』の話が来たときに、俺はこれでもう東京に出ようって決めて、『リアリズムの宿』の撮影が終わってすぐに東京に出たの。

 

ママ 最初はどこ住んでたんだっけ。

 

向井 高田馬場のモルタル2階建てで6万円。地図の調査員のバイトしながら。あれは勉強になるね、引っ越したばっかりで道がわかるようになったし(笑)。

 

ママ まだまだ、映画だけで食っていけない時代だよね。

 

向井 食っていけるようになったのは、その次の次からな。最初から山下・向井コンビみたいな感じで出てきたんだけど、お互い食えるようになったのは『リンダリンダリンダ』かな。あれがスマッシュヒットして、批評的にも認められたから、それでなんとか、バイトもやめることができて、仕事もくるようになったから。

 

ママ 山下さんとは親友みたいな意識があるの? ビジネスパートナーってだけじゃないでしょ。

 

向井 うーん、もう近すぎて、お笑い芸人のひととかが「相方に子供が生まれたことも知りませんでした」みたいなのあるじゃん、バンドマンとか。なんかそういう感じかな。

 

ママ まあ、いまさら一緒にいなくてもわかる、みたいな感じなのかな。

 

向井 そうそう、そういう。

マダム・タッソーと向井くん。

ママ でもさ、けっこうたくさん書いてきてるでしょ。自分でこれが一番好きみたいなやつってあったりするの?

 

向井 いや、どうかな。基本的に自己評価がすごく低いからさ。

 

ママ ああ、そうだよね、なぜか低いよね、なんでだろ(笑)。

 

向井 自己肯定感がないんだよ。ただ『バカの方舟』は大きかった。

 

ママ あれ、VHSで見たもん。

 

向井 その時代だよね。あと最近だと『聖の青春』かなあ。時間がかかったし、初めて山下くんと組む以外のもので結果が出せたんじゃないかなって、ちゃんと脚本の仕事ができたって思った。

 

ママ 山下さんと組む以外で結果が出ることって、複雑だったりするの。

 

向井 いや、早くそうならないとダメだと思ってたんだよ。

 

ママ 山下さんと組んだ中で印象深いのとかは?

 

向井 最近だと『もらとりあむタマ子』かな。あれは、久しぶりに自由にふたりでやったかなって感じ。

 

ママ あれ・・・泣いてる?

 

向井 いや、汗!!! 俺、汗っかきでしょ(笑)。

 

ママ あ、そっか(笑)。なにか感慨深くなっちゃったのかと思った。エアコン消してくるよ(笑)。

老舍と向井くん。

ママ ちなみにさ、監督になろうと思ったことはないの?

 

向井 まったくないね。

 

ママ へー、そういうものなんだ。ねえ、脚本書いてきて、自分が書く感じって変わってきた?

 

向井 変わるよ。俺の場合、ト書きがどんどんなくなってきた。

 

ママ でも書いてる間って、自分の頭のなかに映像は流れるんでしょ。

 

向井 一応あるよね。絵は、浮かんでる。もちろん出来上がるのは、まったく別物になるけどね。

 

ママ じゃあ最後にさ、映画にはまだ希望はあると思う?

 

向井 そうだねえ(笑)。俺が学生の頃、これが映画だなって思って観てた映画では、もうなくなってるのは確かだよね、いまの映画は。でも、まだまだやってけると思う。本数も減ってないしね。

 

ママ 向井くんは、このまま脚本を書き続けるだろうね。

 

向井 もう潰しが効かないしね(笑)。これしかやってきてないし。

 

ママ いまいちばん書いてみたいものって言われたらなに?

 

向井 それでいくと、サスペンスか犯罪者かハードボイルドなやつ。そういうのに対する憧れは少しあるかな。

 

ママ ああ、めちゃくちゃ暗いやつとかぜひ書いてほしい! あと鉄板も買ってほしい!

向井くん情報!

山下監督×向井くんによる映画「ハード・コア」が絶賛公開中!

そして向井くんの長編小説「猫は笑ってくれない」も絶賛発売中!  12月に読むの、合うと思うな〜。

 


 

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Profile

  • スナックアーバンのママ

    四谷三丁目の会員制スナックのママです。ことしで八年目。好きなお酒は芋焼酎のお湯割りに梅干しいれたやつ、好きなツマミはなめこおろし。