2019.09
特集 いつかの暮らし彼方の暮らし 奄美大島

奄美移住2 実り夢見る“宇検村のコーヒー”とよひかり珈琲店

地域おこし協力隊で初めて奄美の地を訪れた女性。彼女は様々な協力を経て、奄美大島南部ののどかな場所に一軒の珈琲店をオープンしました。まるで周囲の14の集落の光を集めたような美味しいコーヒーを求めて、宇検村へ。

9.18, 2019

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奄美大島の中心街である名瀬から車を走らせること約1時間。

気がつけばアパートやビルなどの高い建物は姿を消し、奄美大島の伝統的な平屋の家が続いていた。そして家々の周りには南国らしい植物が咲き誇っている。見上げれば小さな山と、そしてどこまでも広い空。

 

ここは宇検村。焼内湾という夕日の美しい湾が集落にググッと入り込んでいる、のどかな地域。

酷暑厳しい日の昼時だったので通りには人影も少なく、静かな路地を歩くと初めて訪れた場所なのになぜかとても懐かしい気持ちになった。

 

これから会いに行くのは宇検村に移住後、ここで珈琲店をオープンさせた女性。

店は民家の間にさりげなく立っていた。
聞けばここも元は民家だったのを改築したそうだ。
味のある古民家のドアを開けると、あかりが気持ちよく差し込む素敵な店内。

 

大きなテーブルに素敵な椅子、そして広々としたキッチン。
外観からは想像つかない気持ちの良い空間が広がります。

 

広々としたカウンターには数種類の豆が並び、良い匂い。

「奄美大島はおじいちゃんおばあちゃんも珈琲好きな人が多いんですよ。自動販売機の缶コーヒーもよく売れているし」

 

そう教えてくれたのは、ニコニコと笑顔が素敵な店主の浅尾朱美さん。

彼女が奄美大島に足を運んだ最初のきっかけは、“地域おこし協力隊”としてだったそうだ。とはいえ全く縁のない土地、というわけでもない。

 

「母方の祖父母が瀬戸内町出身だったんです。母の代からは大阪に住んでいましたが、おじいちゃんたちから奄美の話はよく聞いていました。
親戚がよく黒糖やつきあげ(奄美のさつま揚げ)を送ってきてくれて、どんなところだろう、いつか行きたいなと思っていました」

 

奄美に来る前は、青年海外協力隊として活動していた朱美さん。
「税金で海外に行かせていただいて、いつか何かで還元できたらなあと思っていたんです。帰国後、試しに“奄美 協力隊”で検索したら、奄美にも地域おこし協力隊というものがあると知り、こちらに来ました。大阪を出て自然の多いところに行きたかったし、自分のルーツでもある場所だから行ってみよう、と」

 

初めて訪れた奄美大島。
「開かれていない感じがくすぐられた」そうだ。

 

海があって、低い山があって、サトウキビがたくさん揺れている。特に南部は山がどんどん深くなって亜熱帯らしいジャングル的なところもある。

彼女の言葉を借りれば「人間が減って、そのぶん他の生き物が多くなる」
ここはそんなところだ。

 

自然豊かでのどかな村。それはそれで素敵だけれど、若い彼女にとって寂しさを感じることはなかったのだろうか。

 

「それが案外一人でぼーっとする時間はなかったんです(笑)。協力隊の仕事の他にも集落の活動や行事もたくさんあって」

 

ちなみに朱美さんは、Iターンで宇検村に来ていた夫と知り合い、結婚。

 

「夫は保健師なのですが、鹿児島の大学を出て、加計呂麻島で実習を経験し、その後宇検村へ来たそうです。男性の保健師は珍しいので、1年間の臨時職員だったはずがそのまま正規雇用に。そして今は私に捕まりました(笑)」

 

宇検村は朱美さん夫婦世代の人数は少ないそうだが子供は多く、中学校は4校ある。地域の集会のほか、小中学校関係の行事なども多く、予想以上に日々は忙しいそうだ。

宇検村での暮らしの時間割

(平日)
6:30起床 7:00朝食・家事 8:30珈琲店へ 19:00仕事終了(曜日により23:00) 帰宅 19:30夕食・家事 23:30就寝

 

(休日)
8:00起床 8:30朝食・家事 9:30農作業(庭や畑の手入れ) 12:00昼食 14:00買い出しのため名瀬市街地へ 18:00帰宅・夕食 23:30就寝

 

<奄美大島ならではの行動>
・集落や地域行事に合わせて、バレーボールや踊り、運動会、余興の練習等が平日20:00頃~ある。
(事前アンケートより)

 

宇検村には大きなスーパーはないけれど、商店と、そしてお弁当屋さんが幾つかあった。

 

「宴会文化があるので、仕出し料理など頼んだりするんです。
何か行事があるたびに、決起会があったり、練習後の会があったり、反省会があったり。そのたびに飲んだり(笑)。でも生活費が内地(都会)ほどかからないし、職場や友人関係以外の場所で、いろんな人と繋がっていろんな人間関係を作ることができました。やってみたいことにチャレンジしやすいし、日常的な人間関係から起こるストレスがほぼなくなりましたね」

 

もちろん最初は馴染みにくい地域ルールもある。

 

「あとはお悔やみやお祝い(入学・卒業式などは一律の金額だそうだ)、お祭りごとなどその度にお金がかかることもあります。でもお祭りはみんな楽しみにしているし、青年団の余興も力の入れ具合がすごい。最近は“ハブレンジャー”というヒーローものが人気!」

 

奄美大島に限らず、移住にあたって「地域ルールや行事」というのはつきもの。小さな地域で皆が手を取り合ってやっていくという中では“会話”と同じくらい必要なコミュニケーションでもある。きっと最初の一歩さえ踏み出せればそう難しいことではないのだろうけど、なかなかその最初の一歩を踏み出すきっかけがつかめない、苦手という人も多いだろう。

 

けれど朱美さんとお話ししていて、そのきっかけのヒントが見えた気がした。

「とよひかり珈琲店」のお客様は地元の人が多いそうだ。
ただ喫茶が出来る場所だけではなく、地域の人がのんびりと時間を過ごせる場所であったり、ママたちが情報交換やおしゃべりをする場でもある。

 

“地域ルールや独自のコミュニケーション”と聞くと少し身構えてしまうけれど、それは特別なことではなくてただ“おしゃべりしながら近所の人とコーヒーを楽しむ”続きのようなものなのかもしれない。心構えの部分だけでもそういう風に考えると、わたしの中にもあった“移住ハードル”が少し低くなった気がした。

いつか宇検村のコーヒー豆を

朱美さんのコミュニケーション能力の高さもあるだろうけれど、数年間の協力隊としての働くうちに集落にもすっかり馴染み、念願だった珈琲店を開こうと決意する。

 

資金はクラウドファンディングを利用したそうだ。
「とよひかり」は英語で書くと「14(とよ)HIKARI」。村にある14集落から店名をとった。その名付けからもここで馴染んで暮らしていこうとする気持ちが伝わる。

 

ちなみに朱美さんが珈琲と関わったきっかけは、青年海外協力隊の時に住んだエクアドルで飲んだ珈琲。

 

それは“美味しくなかった”のだそうだ。

 

「美味しい豆を作る国なのに、なぜこんなにまずい珈琲なんだろうって。最初から砂糖もたっぷり入れるし。きっと淹れ方の問題なのかなあと思ってフレンチプレスで淹れてみたらまあまあ飲めたんです。
でも今では一番うちで飲んでもらっていて、リピーターの多いのもエクアドルの豆なんですよ」

 

そういえば様々な種類の豆があるけれど、仕入れはどうしているのだろうか。

 

「基本は東京で生豆問屋から買い付けていますが、1種類は海外青年協力隊の友人経由でフェアトレードのものを入れています」

そう言いながら取材陣のために珈琲を入れてくれた。
丁寧にハンドドリップで淹れてくれたコーヒーは本当に美味しい!

 

奄美大島の水は全土どこでも美味しいけれど、この森深い宇検村の水はその中でも格別に美味しいそうだ。

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    01.ミルはカリタを使用。

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    02.キッチンの奥のタイルはご近所さんからの頂き物!「買うと結構な金額になるので、ラッキーでした!」おしゃれなカウンターなどは島の大工さんの手作り

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    03.オリジナルの手ぬぐいも。なんと宇検村の集落の地図になっていました。可愛い!

01.ミルはカリタを使用。 02.キッチンの奥のタイルはご近所さんからの頂き物!「買うと結構な金額になるので、ラッキーでした!」おしゃれなカウンターなどは島の大工さんの手作り 03.オリジナルの手ぬぐいも。なんと宇検村の集落の地図になっていました。可愛い!

うまく表現できないのがもどかしいけれど、とてもクリアな香りと、苦味の中のほのかな甘さ。豆の美味しさの奥に、水の力を感じる。

 

“この味”はここでしか飲めないのかあ。
集落の人たちが羨ましく思う。

 

さて、毎日美味しいコーヒーを淹れ続けている朱美さんにはこの先の夢があるそうだ。

 

「ここ宇検村産の豆を育てて、“宇検村のコーヒー”を出したいんです」

現在彼女は「タイムカプセルコーヒープロジェクト」というものを行っている。
中学校の卒業の時に苗を植えてもらい、5年後の成人式にその豆で珈琲を飲んでもらおうというもの。

 

「プロジェクトはこの3月で3回目を迎えました。ここから車で20分ほどの畑を借りています。台風でパイプが破損したり日照りが強すぎたりなかなか管理も大変です。
コーヒー豆が育ちやすい「コーヒーベルト」というのがあるのですが、奄美は北緯が少しだけ外れているんです。台風と寒暖差もあるし、豆は育つけれどクオリティを安定させるのが難しい。あと日々ハブとの戦いですね(笑)。特にこの時期は藪にはいるのは怖い! 気をつけて歩いています」

台風もハブも乗り越えて、いつか実るコーヒー豆には宇検村だけの味が含まれているんだろう。どんな味が想像してみた。きっと森のように力強くて、美味しい水の清廉さもあって、道端に咲いていた色鮮やかな花々のような華やかな香りがするんじゃないかな。出来上がったら是非飲みに行きたい!

 

ちなみに宇検村産のコーヒーは“10年後の目標”だそうだ。

その前に5年後の目標として2階建ての建物もまだ手をつけてないところを宿泊施設にできたらいいなあと考えているとか。

 

最後に、「いつか移住したい人たちにアドバイスを」を聞くと、こんな答えが帰ってきた。

 

「旅行で一度は訪れてみて、できれば地元の人に話しかけてみる。移住先でどういった暮らし(衣食住)をしてみたいかを具体的に想像して、その時にどういった情報やスキルが必要になりそうかを考え、移住にむけて準備を進めるのをオススメします」。

 

なるほど。名瀬などの市街地ではなく宇検村のような集落での暮らしをしたいと思うなら、地元の人との会話をすることも自分にとって住みやすそうか、そうでないかを判断する大事な材料になるのは確か。

 

そして宇検村にはとよひかり珈琲店がある。

まずここを訪れ、5年後なら宿泊もしてみて、そして珈琲を飲みながら地元の人の会話に耳を傾けることから始めてもいいかもしれない。

奄美大島のお気に入り

朱美さんにも、奄美大島のお気に入りの場所を教えてもらった。

 

ホノホシ海岸

「穏やかでも荒れている、迫力がある海岸。
初めて行った時になんてパワーのある場所だろうと思いました」

ここには時間があったので寄ってみました。

入り口はまるでジュラシックパークの舞台のような、木々が生い茂る小山と野っ原。まずはその姿にも圧倒される。

そこを超え、海に降りた(公園のように整備されているので海まではすぐ)。広い入り江に、白い砂浜…だと思ったら砂浜に見えていた部分はすべてまあるい石!

この日も比較的穏やかな天候でしたがそれでも寄せては引く波に合わせて石たちが転がります。

 

ゴロゴロ、ガラガラ。
すごい量の石が転がって音を奏でているのだけれど不思議と“うるさい”とは感じず、ただただ自然の不思議な音楽会に耳を傾けてしまう。

パワースポットとしても有名だからか、あちこちに訪れた人がハートマークを作ったりとそのパワーにあやかっていました。
そうそう、ここの石は「決して持って帰ってはいけない」と言われています。

 

地元の人に聞くと、子供の頃に遊び半分で持ち帰り、親に大目玉を食らって返しに行った、という人がいたほど。
観光客として訪れた場合も、この不思議な音楽会に耳を傾け、自然のパワーを受け取るだけにしておきましょう。

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    01.大きな岩には、長い時間をかけて波が削ったのか、トンネルのような空洞ができていた。

  • 02

    02.神々しいほどの巨石

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    03.10センチほどの石を軽々と転がす波の力にも圧倒されました。

01.大きな岩には、長い時間をかけて波が削ったのか、トンネルのような空洞ができていた。 02.神々しいほどの巨石 03.10センチほどの石を軽々と転がす波の力にも圧倒されました。

アランガチのガジュマル

「ここから名瀬に行く途中にある、新小勝(アランガチ)トンネルの手前にある大きいガジュマルもすごいです。桜蘭という、ぼんぼりみたいな花が絡まるように咲いているんですよ。見上げると枯れかけたガジュマルに、ピンクの花がポンポンと。夏のこの時期だけみられる光景です」

 

運のいいことに、私たちが行った日も少しだけピンクの花が咲いているのがみられました。
一体何歳かもわからないほどの大きなガジュマルに、元気で華やかなぼんぼり。その組み合わせがとても面白くてしばらく眺めていました。

 

他にもお気に入りの公園にコーヒーを持参して景色を楽しみながら飲んだり、星が降ってくるかのような天の川を眺めたりなど、奄美大島ならではの光景や楽しみ方を教えていただきました。
本当に奄美大島には2泊3日でも足りないほど素敵な場所がたくさん。
特に南部はのんびりと自然を楽しむ時間も欲しいから、次回はぜひここに宿泊してオススメしていただいた光景を全部見ることができたらいいなあ。

Profile

  • 大辻 隆広Photographer

    福井県出身。
    go relax E more
    石黒幸誠氏を師事後、2007年独立。
    現在は、雑誌や広告だけでなく、写真展やプロダクトの製作など、ブランドや企業とのコラボレーションも度々発信している。

  • 松尾 彩Columnist

    フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

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