2019.03
特集 Old to the New, New to the Old 石巻

石巻の人と未来をつなぐハブステーション

2019年の石巻。様々な人が石巻を訪れ、<石巻の魅力>がどんどん再発見される。もちろん新しく生まれた魅力もたくさん。人と人が、文化と文化がつながって、石巻はさらに面白い町になっていた。

3.6, 2019

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突然ですが質問です。「宮城県の石巻といえば?」

 

そう聞かれて多くの人が今、パッと頭に浮かんだのは
「魚が美味しい」もしくは「美味しい魚が獲れる」でしょうか。

 

確かに石巻のお魚は美味しい。

黒潮(暖流)と親潮(寒流)がぶつかる三陸沖は世界三大漁場と呼ばれているし、牡蠣の養殖も実は石巻の万石浦から始まって世界に広がったそうで、つまりは世界的にもトップレベルの漁場。

さてさて、視点を少し昔にワープさせてみましょう。
戦国時代末期この辺りの藩主はご存知、伊達政宗です。

 

現代でも様々なドラマ、映画の題材になるほど逸話の多い敏腕藩主の政宗さん。スペイン帝国(当時のスペインは超巨大国家だった)に支倉常長を派遣して交易を深めようとします。残念ながらこの交易は実現しなかったけれど、その時にもともと小さな漁村だった石巻は「貿易ができる港」として整備されました。それが現代の“世界の”石巻漁港につながります。

ちなみに初めて日本人として世界一周をした人も石巻を拠点としていたそうですよ。

 

石巻のお魚がなぜ美味しいか。いろいろ理由はあるのですが、それについては次回お伝えします。

さて、次に多い答えは漫画好きによる<石ノ森章太郎>氏の名前かもしれません。石巻駅では駅に着いた途端石ノ森氏の漫画キャラクターたちがお出迎えしてくれます。
駅の入り口から始まり、街中にもいたるところにキャラクター像が立っていました。
サイボーグ009、仮面ライダーシリーズ。

親子でキャラクターを見つけては写真を撮る人たちを見かけました。リアルタイムでアニメを見ていた親世代は懐かしみ、再放送やリメイク作品などを見ていた子供たちも目を輝かせる。幅広い世代に愛される石ノ森作品らしい光景です。

それからB級グルメ好きからは<石巻焼きそば>の名前が出ます。

 

地方の食べ物特集番組ではよくお目にかかる、“茶色い”焼きそばです。 焼きそばは茶色い食べ物じゃないかって?
いえいえ、石巻の焼きそばは「麺が茶色い」んですよ。なんでも2度蒸すことで麺の中のかんすいが熱で変化して茶色くなるんだとか。特徴としてはふっくら柔らかく、地元の高校生の小腹を満たす地元名物グルメとなっています。

 

さて、もう一つ今回の石巻取材で、私たちの目に一番印象的だった<石巻らしさ>

 

それは震災後、ボランティアなどで石巻にやってきた人や、そのまま移住したいわゆる“よその人”たちが、住民たちと共に作り始めている<石巻のいま>でした。

 

その交流は時には古き良きものを復活させたり、はたまた新しい石巻を作り出したり。今回石巻編のタイトルにした“OLD TO THE NEW, NEW TO THE OLD(伝統を革新に、革新を伝統に)”は今回見た石巻のイメージそのまま。

 

もちろん震災で受けた傷はまだ完全に癒えたわけではないし、復興という意味ではまだまだやれることはたくさんあるのだけれど、8年後の<石巻>を上からでもなく、下からでもなく、まっすぐな目線で見てみれば、新しくて美味しくて、とっても面白い人がたくさんいる街でした。

 

今月の石巻編では、そんな風にカルチャーを、つながりを、味覚を、発信する人たちに会いにいきたいと思います。

囲炉裏のように、あたたくて誰かとつながる場所。

石巻駅から歩いて10分。
二つのメインストリートが交差する場所にそんな素敵な場所がありました。

入り口には<IRORI ISHINOMAKI>とあります。

 

遠目にもおしゃれなガラス張りの入り口。

 

中に入るとコーヒーやケーキをを販売している。ここはカフェ? だけど奥の方には作業スペースが見えたりもしているけれど…。

 

実はここ、誰もが利用できるコワーキングスペースなのです。
使い方はいろいろ。

 

空間を貸し切ることもできるので、例えば大きなイベントをするために店内を丸ごと借りることもできるし、軽いミーティングのために1スペースを借りることもできる。プロジェクターレンタルもあるので映像鑑賞だってできちゃいます(貸切やレンタル機材は有料)。

 

貸切でない日は、自由に店内の大小様々なテーブルや椅子に座ることができます。そしてWi-Fiと電源も借りれるのですがこれはなんと無料。

 

併設のカフェでコーヒーを頼んで、のんびりリラックスしたりパソコンを持ち込んで仕事することもできます。

 

“誰でも”利用できるので、例えば東京の企業がここでイベントを開いてもいいし、旅行客であればWi-Fi経由でこれから行く場所のことを調べたり。
歩くのに疲れたらお茶休憩してもいい。そんなフリーダムな場所。

 

そうそう、カフェも素敵なメニューがたくさんありました。
コーヒーやジュース、フードメニューも充実です。

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    01.フードメニューも充実。人気はキャロットケーキ。小腹が減った時に嬉しいホットドックもあります。

  • 02

    02.ドリンクもコーヒーからはちみつレモンまで種類豊富。

  • 03

    03.店内で販売されていたユニークなバッジ。人気商品なんだそう。

01.フードメニューも充実。人気はキャロットケーキ。小腹が減った時に嬉しいホットドックもあります。 02.ドリンクもコーヒーからはちみつレモンまで種類豊富。 03.店内で販売されていたユニークなバッジ。人気商品なんだそう。

このIRORIを運営しているのは、一般社団法人の<石巻2.0>

 

震災後にできた復興支援団体や、NPO法人はたくさんあります。それぞれが得意な分野を担って復興に着手したのだけれど、その中でも<石巻2.0>のユニークな特徴は、いち早く<未来を見据えた石巻>を作ろうとしてきたこと。

 

ホームページにはこんなことが書いてありました。

 

“石巻をバージョンアップしたい。
震災の前の街に戻すのではなく、新しい未来を作りたい。
被災した店の二階に集まった有志たちの思いから、
ISHINOMAKI 2.0は生まれました。
合言葉は、「世界で一番面白い街を作ろう」。”

ホームページより抜粋

 

震災以前から「地方都市の問題」として、少しずつ減っていく若者、シャッターが降り寂しくなる商店街。石巻2.0を立ち上げたメンバーの中にも、それに対して問題意識を持っていた人が少なくなかったそうです。

 

また最初のメンバーに、東京の建築家やデザイナーも加わったことで復興と同時進行で<新しい石巻>をどんどん作り始めます。

 

まず最初にスタートしたのは<石巻工房>の企画。

 

2011年3月に震災が起き、2ヶ月後の5月にはその企画が立ち上がったと聞けばそのスピード感がよくわかるのではないでしょうか。

 

<石巻工房>は当初自分たちで壊れた家具を直せたり自作できたりするDIY工房としてスタート。

 

その後、なんとハーマンミラーの職人たちが石巻を訪れワークショップを行います。そこで様々なことを教えてもらって作り上げた家具が評判を呼び、<石巻工房ブランド>が誕生します。

日本のブルーボトルにもこの石巻工房の家具が使われているそうですよ。木の素肌を生かしたシンプルでかっこいいデザイン。IRORIにもハーマンミラーと石巻工房の家具が置いてあるのでぜひ座り心地を確かめてください。

 

そして同年7月には、石巻最大のお祭り「川開き祭り」に合わせたSTAND UP WEEKと言うイベントを開催。また復興バーという、みんなが集まれるバーを早くから開いたりするなど<石巻の未来>へ繋ぐ礎となる企画を次々に実現させていきます。

今回お話を伺った、石巻2.0の理事をされている勝邦義さんは震災を機に石巻へ来た人です。

 

もともと横浜の設計事務所で働いていたけれど、横浜と石巻を往復しているうちにこちらでの仕事も増え、今は石巻に設計事務所を構えたそう。

このIRORIも勝さんの設計。

 

IRORIの中でもっとも目を引くのが、フロア内にあるガラス壁の小部屋。
仕切られているけれど、中が見えるのでフロアとも自然に繋がっているユニークな個室です。

「ここは月貸しレンタルスペースなんです。“CUBE”と言う名前のフロアなのですが、一つの空間に入り混じってつながることをイメージしました。
コワーキングスペースではありますが、仕切ってしまうのではなくいろんな人が出入りして、(職業も年齢も)いろいろ違う人が一緒にいれればいいなと思ったんです」。

  • 01

    01.CUBEのうちの一つは、1時間500円でミーティングスペースとしても使用可能。空室時は出入り自由なんだとか。

  • 02

    02.机があるコワーキングスペースもある。ここも扉などはないので席からカフェのある空間まで自然に繋がっていました。

  • 03

    03.目を引いた石巻の手描きマップ。新しいお店などが増えていく様子がよくわかる。

01.CUBEのうちの一つは、1時間500円でミーティングスペースとしても使用可能。空室時は出入り自由なんだとか。 02.机があるコワーキングスペースもある。ここも扉などはないので席からカフェのある空間まで自然に繋がっていました。 03.目を引いた石巻の手描きマップ。新しいお店などが増えていく様子がよくわかる。

きっとここでの会議は盛り上がりそうですね、と言うと以前ここでおこなったという会議の写真を見せてくれました。

 

プロジェクターで壁に資料を流し、参加者は思い思いのスペースにリラックスして座っている。狭い会議室で、座りづらいパイプ椅子に座って手元の資料を眺めるだけの会議に比べたらなんと自由で楽しい時間なんだろう。

 

ホームページにあるようにまさに
「街に開かれた未来のオフィス」!

 

様々なプロジェクトを進めている石巻2.0ですが、その理念である<新しい未来>へ進むために必要なのは様々な人たちの“何をしたい”や“何が欲しい”などの「声」です。
やりたいこと、なりたいこと、希望や夢。誰もが持っているものですが“声”に出さないとそれはどこにも伝わりません。

 

その声を拾うために、広げるために石巻2.0では新聞(現在休刊中)やラジオ、YouTubeチャンネルなど様々な“メディア”もたちあげます。もちろんIRORIもその声をつなげるスペースの一つ。

VOICEの初号(編集部撮影)。発行されたものはIRORIにも置いてありました。

メディアとしての第一弾は、フリーペーパー「VOICE」の発行でした。

 

「メディアを作って、石巻の内外の人たちと街を作っていきたい、そういうコンセプトからからスタートしました。被災体験をされた方たちの、ネガティブでなくポジティブな声を発信できるものを作りたい。それがVOICEだったんです」

記念すべき最初の0号を読ませていただいたけど、「震災直後の声」にも関わらず、その多くの声は震災前の「地方都市ならではの問題」について語り、そこから「こうしていきたい」というポジティブな声に満ち溢れていた。

 

もちろん悲しみも悔しさも、辛いこともあるけれど、それでも「前を向く」声は確かにあって、それは徐々に大きな声になる。

 

「復興バーや音楽イベントをするうちに地元の人たちからも「それやりたい、あれやりたい」と言う声が出てきたんですよ。
石巻最大のお祭り「川開き祭り」も、震災直後はお祭りなんて不謹慎だと言う雰囲気もあったんです。でも地元の方々中心に「鎮魂のためにもやりたい」という声があって、震災の年からイベント(STAND UP WEEK)を開催しました。それは未だ続いているんですよ」

 

そうやって地元の、ナマの声を拾っているから石巻2.0の活動もそれに沿ってどんどん変化して行っているそうだ。

 

「以前はイベントに賛同して手伝う、ということが多かったのですが、ここ最近は内容も精査して、長い視点で石巻の未来につながることを中心に行っています。
石巻はUターンの人も多いから、外部の人よりも地元の人が「何かやりたい」ことを進めて内需経済を広げていくのが今の石巻2.0の核。

 

ここ(IRORI)もただ人が来るカフェではなく、観光の資源、街の資源をここからインフォメーションしていきたいんです。2017年に行われた<石巻2025会議>では、ローカルベンチャー、地域包括ケア、移住、観光と言う大きく4つの事柄についていろいろな人とのセッションを行いました。文字通り2025年と言う近い地域の未来のために何ができるか、何を考えればいいか、そんなことを話し合ったりもしています」

 

人が集まりつながるIRORIはまさに石巻のハブステーションにもなっているけれど、もっとどんどんアクションを起こす場所にしたい、と勝さんは言う。

 

「石巻から世界に届くものを作りたい。そのためにはクオリティも大事です。
かっこいい、美しい。そんなものを作っていけたら。石巻はもともとカルチャーの土台はしっかりある街だったんです。ファッション、音楽、ちょいワルオヤジ世代たちからのスケボー文化とかね。そうそう、(ピーチリキュールにウーロン茶を合わせた)カクテルの「レゲエパンチ」は宮城発祥なんですよ」

石巻2.0ではIRORI以外にも運営している建物がある。一つはIRORI近くにある旧観慶丸商店。昭和5年に建てられた木造3階建てのかつては石巻のランドマークとして親しまれてきた館を「文化の百貨店」として新たな公共施設にするべく運営しているそうです。

それからこれまたIRORIの近所にある「石巻 まちの本棚」にも案内していただきました。ここは勝さんが最初に関わった場所でもあるそう。

もともとは被災地に本を送る「一箱本送り隊」と言う活動からスタート。震災以前から石巻では本屋さんがどんどんとなくなっていったそうです。
姿を消した本屋さんに代わって、本好きが集まれる場所として誕生しました。
現在は小規模の取次とやり取りをして本を増やしているそうです。

 

入り口を入って右は貸本、左が販売というユニークな店内。
様々なジャンルの素敵な本が置いてあって、本の虫が多い取材班は何時間でも居座ってしまいそうなほどワクワクする場所でした。ここでも本好きのためのワークショップやイベントが行われているそうです。
「ここから本に関わる編集や、そういうことをしたい人を生み出したいなと思っています」

 

 

ここで1冊の本を買いました。

 

タイトルは<GATEWAY TO JAZZ KISSA ジャズ喫茶案内1>。

GATEWAY TO JAZZ KISSA ジャズ喫茶案内VOL.1 / JAZZ CITY(編集部撮影)

表紙には陸前高田の仮設店舗で営業するジャズ喫茶の写真。中を読み込むと、東北の素敵なジャズ喫茶が多数紹介されていました。表紙のジャズ喫茶「ジャズタイム ジョニー」は震災で建物が流されてしまったけれど常連客の応援もあって現在仮設で営業されているのだそう。

本によると岩手や宮城など東北は全国でもジャズ喫茶が多いエリアだと書いてありました。石巻にも数件ジャズ喫茶があったり、勝さん曰く石巻でもレゲエが人気だったりフェスやDJイベントなどが行われるなど“音楽”にとても親しむまちなんだとか。

 

石巻の小さな本棚からまた一つ、東北の、石巻の魅力に出会えました。

Profile

  • 松尾 彩Columnist

    フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

  • 熊谷 直子Photographer

    幼少期より写真を撮り始める。20歳で渡仏し、パリにて本格的に写真・芸術を学ぶ。2003年よりフリーランスフォトグラファーとして雑誌・広告などでポートレートや風景など多ジャンルにおいて活動し、個展での作品発表も精力的に行う。主な著書/二階堂ふみ写真集「月刊二階堂ふみ」、杉咲花1st写真集「ユートピア」、熊谷直子作品集「赤い河」

Information

  • IRORI ISHINOMAKI

    〒986-0822 宮城県石巻市中央二丁目10-2新田屋ビル一階

    営業時間 : IRORI 石巻(10:00〜22:00)
    IRORI+CAFE(10:00〜22:00)
    ※日曜のみCLOSE 19:00

    TEL : 0225-25-4953

    URL:http://irori.ishinomaki2.com/

  • 石巻 まちの本棚

    〒986-0822 宮城県石巻市中央2丁目3-16 たん書房ビル一階

    営業時間 : 土曜・日曜・月曜 11:00〜18:00

    TEL : 0225-25-4953