2019.03
特集 Old to the New, New to the Old 石巻

美味しい石巻をつくる、つなげる<いまむら>

震災後のボランティアとして石巻にやってきた若き料理人は、石巻の素晴らしい素材や人々に魅せられる。そして今では「石巻の美味しさを伝える」人となってこの地に根を張った。

3.20, 2019

  • food&liquor
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調理場をぐるりとコの字型に囲むケヤキのカウンターに座り、仕込みの準備をじっと眺める。

 

今はまだオープン1時間前。
だけどもうすでに焼き入れを始めている素材がある。

 

大きな鍋には大きな昆布。

刺身用に使われる魚のサクにも何かの作業をしている。

 

これから1時間後、これら全ての食材はもっとも良いタイミングで提供される。

 

さて、これはお店がオープンする前に取材させてもらいながら調理場を眺めたシーンの事。

 

コース料理が始まった今、わたしはまるで食通かのように「このソースの隠し味はなんだろう」と考え込むふりをしながら、行儀悪にこっそりとそのソースを指ですくっては舐めている最中。

 

ふと同行者を見てみれば、同じようにそのソースひとかけらも逃すまいと必死。目が合いバツが悪くなるけれど、「仕方ないよね、美味しいもの」とお互いをフォローしあうのでした。

 

ここ<いまむら>は石巻で人気の和食料理屋さんです。
料理はすべてコースになっていて、先付からデザート、お酒に至るまで石巻や東北の美味なる食材が味わえるお店。

 

まずは今回いただいたお料理を一部ご紹介したいと思います。

先付のメバチマグロのヅケ、白子ソース。

 

白いソースの上に、さらに鮮やかな緑のソース。これはふきのとうから抽出したオイルだそう。

 

マグロの旨味、白子の濃厚さ、そしてふきのとうの力強い香り。

白子ソースにとてつもない濃厚な出汁の風味を感じたのだけれど、聞くと出汁は使わずに太白ごま油のみ使用しているとか。素材の味がいいとここまで曇りない旨味が出るのかとびっくり。
そして旨味×旨味をオイルの香りでキュッとまとめてあるから濃厚なのに後味はキリッとしていました。

準備中から気になっていた、大きな鍋に入っていた昆布の出汁は、しんじょにはられていました。なんでもこの昆布はフィッシャーマン・ジャパンが関わる北海道利尻島の昆布。通常よりもはるかに長い、10年と15年という長い時間寝かせたものをちょうど手に入れたということで、ご主人の今村さんから「せっかくなので10年ものと15年ものを飲み比べてみましょう」と飲み比べもさせていただきました。

 

最初は10年ものの昆布から。そこに半年かけて熟成させた本枯れ節の一番出しを合わせ、菜の花と炙りほたてのしんじょに注がれる。黄金色のスープからはものすごい強い旨味を感じるけれど、尖ったところはまるでなくて、“美味しい”と思った瞬間にそれがすっと引く。だから飽きないし、時々口に含むしんじょの甘みがより引き立っていました。

 

「両方とも昨日の夜から(出汁を)出していました。熟成させた昆布はメープルシロップと同じ成分(※メイラード反応)が出てくるみたいで甘いんです」。

そのあと15年ものの昆布の出汁を飲ませてもらいました。風味も後味も確かに違い、15年ものの方がなぜか香りがすっきりしていたような印象。後日調べたら一般的に昆布は若いほど香りが強く、熟成するほど甘み、旨味が強くなるとか。人間と同じで年月を重ねるほどに見た目(若さ・香り)ではなく中身(味)が充実してくるのですね。

そして待ちに待ったお造り。

別の記事でご紹介している神経締めの達人、大森圭さんの「手当て」した魚の登場です。この素敵なお皿は地元石巻の三輪田窯。石巻の夜の海をイメージして作っていただいたとか。

 

「みてください、このスズキ。七色に輝いているでしょう」
今村さんが嬉しそうにそう言う。見ると確かに皮を引いた後の身は光が当たるとキラッと薄い虹色に輝いています。適切な処理をして、適切な調理をしているからこそのこの美しさ。

 

この日は水ダコ、ホウボウ、ナメタカレイ、アイナメ、スズキ、ミンククジラの盛り合わせ。そこに塩とピスタチオ酢味噌とみかんソースが添えられていました。

 

どの食材も弾力があり、噛むほどに旨味が出てくるので普通のお刺身の3倍は長く噛んでいたように思います。もちろん噛み切れないという意味ではなくて、あまりにもすぐに飲み込むのがもったいなくて。

 

合わせるソースもまたすごい。「ピスタチオ酢味噌」と名前だけ聞くと奇をてらったように思えるけれど、お刺身につけるとその旨味がふわりと引き立つ。

 

みかんソースも風味がすごいのに、かといって魚の香りが消されるわけでもない。

それぞれのお刺身に、どのソースをつけようか。その悩む時間もとても楽しいものでした。

 

そして冒頭のように「このソースの隠し味は…」としたり顔でソースをすくっては舐め、すくっては舐めをしてしまったわけです。

  • 01

    01.メヒカリの天ぷら

  • 02

    02.藍の鰆の焼きびたし

  • 03

    03.豚肉にはカボチャのソースと梅酒と燻りがっこを煮詰めたソースがかかっていた。

01.メヒカリの天ぷら 02.藍の鰆の焼きびたし 03.豚肉にはカボチャのソースと梅酒と燻りがっこを煮詰めたソースがかかっていた。

その後、口どけがこの世のものとは思えないほどフワッフワのメヒカリの天ぷらとシャキリした歯触りのスナップエンドウの揚げ物(これには藻塩、仙台味噌とゴルゴンゾーラを合わせたソースとみたらし風のソースでいただきました)や2時間火入れをしたという「藍の鰆」の焼きびたし。これにはシャコのコンソメが引かれていました。

 

他煮物、焼き物(3時間火入れした宮城県栗原市の漢方三元豚)、炊き込み御飯、デザートまで計10品。

炊き込み御飯は本日は3種(牡蠣の土鍋、ふきのとうと白魚の混ぜご飯、ドンコの肝和え)あり、そのうち2種類をシェアしていただいた。

お米は石巻のササシグレを使用しているそうです。これはササニシキの親種で、先祖(交配種)にもち米がいないので粘りが少なく土鍋で炊くのに向いているそう。確かに粒が立っていてすっきりした印象。最後の料理なのにするりと頂けちゃいます。

デザートはミントパイナップルのシャーベットとチョコのムース。ミントのソースが添えられ、「チョコミントにして召し上がってください」という言葉にキュンとなる。

デザートまでいただいて、もう満腹のはずなのに、次の予約のお客さんたちのための料理がお皿に並べられているのを目にした途端、なんだか羨ましくてたまらない気持ちになりました。もう一度最初から食べたい…。

料理が美味しいのはもちろんなのですが、「いまむら」にはカウンターからみることのできる料理人の手作業の美しさや、時折紹介してくれる素材の特徴など”味覚”以外の楽しさもあリます。

 

カウンターの中で、常にニコニコしながら無駄のない動きでテキパキと料理を仕上げていくご主人の今村正輝さん。
千葉県出身で以前は銀座の和食料理屋で4年間ほど修行をしていたそうです。

 

いつか独立するために資金を貯めつつ、さらなる修行のために別の店に移ろうか、そんなことを考えていた矢先にあの大震災が起こりました。

 

今村さんは石巻に駆けつけ、ボランティアとして活動を始めます。
最初はガレキを片付ける隊だったそう。当初はすぐ帰る予定だったけれど、その後もう一度オープンする店の再生を手伝う「店舗再生班」の班長を任され、班の仲間とともに大工仕事なども手がけるようになったそうです。気がつけば貯金は底を尽き、アルバイトをして日々を凌ぐような生活。

 

「すぐに再建したくても大工さんも捕まらない状態でした。信号も1年近く灯らなかったですから。

 

ここに来る前までに将来の自分の店のために100万円ほど貯金していたんですが、震災後、体育館にぎゅうぎゅうになって避難している場面や、おにぎりに行列をしているのを見ると、自分は帰れば仕事がある。だから貯金がなくなるまではここで手伝おうと思ったんです」

 

もちろん色々落ち着いたら帰ろう、そう思っていたけれど様々な縁があってこの土地に自分のお店を出すことになる。

 

「何もわからないままのスタートでした。お店を出すための保証の取り方もわからないし銀行からお金も借りられない、1年くらいそんな状態でした。でも再生班の仲間やボランティアで知り合った地元の人たちも応援してくれて、なんとかお店をオープンさせました。内装も全て手作りだったので、工事が終わったの、お店を開く前日なんですよ(笑)」

 

オープンは2013年4月。その時の記念すべきメニューを聞いてみました。

 

「その時はもう『あれ、出汁ってどうやって取るんだっけ』といった状態だったんですが(笑)、簡単にできる炊き込み御飯と、刺身と、葛のデザートを出しました」

 

料理人として4年の修行というのは本来ならまだまだ序の口。ですが「生産者や農家、飲食店の距離が近い石巻の、ここでしかできない料理を届けたい」という熱い気持ちと、周りの支え、石巻の素材をフルコースでいただけるというユニークさからお店は評判を呼び、ミシュランガイド宮城2017特別版にも掲載されたほど。ここでの美味しい旬の一皿を逃したくないと、定期的に訪れる県外のお客さんも多い。

 

 

そして2018年の11月にいまむらはリニューアルオープン。

 

新しくなった店内で、一番のお気に入りの箇所を聞くと
「石巻のケヤキを使ったカウンターですね。席を少し高くしたので、座りながら作業を見てもらえるようにしました。二人客同士でも程よい距離感が取れるし、一期一会も楽しんでいただきたいと思っています」

確かにコの字型のカウンターは他のお客さんの顔はよく見えるけれどお互いの会話はぶつかり合わない程度の距離感。それでも今村さんが何か作業するたびに皆でその手元を注目し、そして目が合えば「あれ、美味しそうですね」とアイコンタクトで会話できる。その間合いも非常に心地よいものでした。

大森さんが調理時間に合わせて神経締めした魚を、さらに食べる時間に合わせて塩を振ったり、寝かせたり、ゆっくり焼きを入れたりと手間を加えていく。そしてその手間が素材の持つ最高の味を引き出す。

先述の大森さんとの出会いも石巻で長く店を続ける理由の一つだそう。

 

「初めて会った次の日には魚を持ってきてくれました。いままで見たことのないような処理をしていたのでそれが気になって現場まで見学に行ったりもしましたよ。大森さんは魚種や魚体の大きさを見て処理をするからいつ、何時に呼ばれるかわからない。
そうやって大森さんが処理(手当て)した魚を僕が処理(調理)する。
それができるのはここ(石巻)でだけ。だからここでお店をやりたかったんです」

ちなみに今回取材した人たちの多くから(水産関係者ばかりなのに)「実は魚嫌い(苦手)だった」と言う衝撃的な発言を聞いていたのですが、全員が口を揃えて「いまむらで魚料理を食べてから、食べられるようになった。美味しいと思った」と言っていたのがとても印象的でした。

 

URBAN TUBEのスタッフは全員大の魚好きだったけれど、それでも「魚ってこんなに美味しいものだったんだ」と皆の目から魚の鱗が100枚はポロリとしたほど。

 

 

石巻の良い素材を、大森さんたちのように良い状態に整えてくれる人がいて、今村さんがそれを最高の料理に仕立てる。料理に例えるなら昆布出汁と鰹出汁を合わせると相乗効果の旨味が現れるように、一つ一つの繋がりが何倍にも広がって、いま私たちの味覚を楽しませてくれている。

 

そうそう、今村さんを石巻に惹きつけた大事な縁の一つには地元出身の妻・由紀さんとの出会いもあります。

今村さんが最高の状態に仕上げた素材をお皿におくと、由紀さんがすかさず彩り美しくソースを乗せていく。そんな素晴らしい連携技もカウンターから見られる楽しみの一つ。

美容師だった由紀さんとの出会いは、ボランティア時代の店舗再生班。絵が得意な由紀さんは、班の活動で商店街のシャッターに絵を描いていたそう。そのセンスもまたいまむらの料理の“美味しさ”の一つになっている。

「美容師時代はしていなかった料理も、いまはバリバリしています。盛り付けにうるさいんですよ〜(笑)。あと負けず嫌い。僕がまかないでカレーを作ると、もっと美味しいのを作り始めたりします」と言うのをこっそり教えていただいた。この二人のキャラクターも、いまむらが愛される理由なんだろうなあというのがこの数時間で伝わりました。

「いまむら」から発信される、石巻の魅力

美食大国フランスのことわざで「超一流のシェフは最高の料理を作るために最良の食材を集めるのではなく、今ある食材で最高の料理を作ってみせる」というのがあります。そして石巻はその「今ある食材」が最高なものが揃う街。今村さんはシェフとしてだけではなく、その「石巻の食材」を広く伝える活動もしている。

 

「来月は石巻の鹿の猟師と東京のシェフとで鹿のイベントをするんですよ」(※イベントは3月13、14日に終了しました。取材は2月に行っています)
と楽しそうに言う。聞けば「いまむら」では他県などのシェフをいまむらに招き、地元食材を使ったイベントを行うこともあるのだそうです。

 

「全国の料理人をここに呼んで生産現場で調理してもらい、地元で食べてもらう。そういうことも発信していきたいんです」

 

ちなみにお二人は2018年の6月に式を挙げて、お店の改装中に結婚旅行を兼ねて全国を旅したそう。コース料理に合わせたお皿などもその旅行の間に色々仕入れたもの。

 

「北海道の利尻島では実際に昆布漁にも同行させてもらったり、また地元の食材で料理をするイベントをしたんです。昆布に関してとても勉強になったし、地元の漁師の奥さんたちには(料理を通じて)昆布のポテンシャルを知ってもらう内容のイベントでした」

 

他にも鰹節の見学をしたり、酒造を訪ねたりと新婚旅行ならぬ新婚研修!?のような日本縦断をされたのだとか。

 

前回ご紹介したIRORIが文化や情報のハブステーションなら、いまむらはまるで石巻の食のハブステーション。石巻からの発信と、旅で得た他の良いものの情報がまさに今、ここで交差しています。

宮城県の酒造、一ノ蔵の「一ノ蔵立春朝搾り」。二十四節気で1年の始まりとされる2月4日の立春に限定販売されるお酒。他県にはなかなか出回らない地元の美味しいお酒との出会いも楽しめます。

そうそう、いまむらには地酒もたくさん置いてあります。それぞれのお皿と日本酒やワインなどのマリアージュを楽しめるのも魅力の一つ。

 

さらに現在は石巻の飲食店が集まって収穫から醸造まで手がける石巻ワイン“まきのわ”にも関わっていらっしゃいます。
「仙台の南にある川崎町でワイナリーを借りています。瓶詰めも自分たちでやるんですよ」

 

なかなかに好評で、4月にはついに東京でのお披露目も行うそうだ。

素敵な時間と素敵な料理をたっぷりと堪能し、感謝の言葉を述べ失礼しようかと思った帰り間際。

「3月中旬は牡蠣は美味しいし、マス系も上がってきます。4月はホヤのシーズン。アンコウも味が美味しくなって肝がでっかくなるんです」なんて今村さんが言うものだから、嗚呼、きっとまた来ずにはいられない。

Profile

  • 松尾 彩Columnist

    フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

  • 熊谷 直子Photographer

    幼少期より写真を撮り始める。20歳で渡仏し、パリにて本格的に写真・芸術を学ぶ。2003年よりフリーランスフォトグラファーとして雑誌・広告などでポートレートや風景など多ジャンルにおいて活動し、個展での作品発表も精力的に行う。主な著書/二階堂ふみ写真集「月刊二階堂ふみ」、杉咲花1st写真集「ユートピア」、熊谷直子作品集「赤い河」

Information

  • いまむら

    〒986-0822 宮城県石巻市中央2-7-2

    営業時間 : ディナー[火〜土]18:00-21:00(L.O.)23:00
    ランチ[土曜のみ]12:00-13:30(L.O.)15:00
    ■コース:ディナー/6,000円(税抜)/8,000円(税抜)・ランチ/5,000円(税抜)
    ■定休日:日、月、他不定休

    TEL : 0225-90-3739

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