2019.1
特集 なんかイイ、荻窪

第一話 アダチという青年

東京には人が溢れている。ほおっておけば時々溢れ過ぎそうになる。だから街はよく呼吸し、循環器のように人々を送ったり戻したりして溢れずに途切れずにしているようにも見える。今日は「荻窪」という街の呼吸にいた、とあるミュージシャンを追った。

1.9, 2019

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と、その前にURBAN TUBE 2019年ご挨拶

その昔、ミュージシャンが新曲を発表するにあたって、<A面・B面>というのがあった。(レコードやカセットテープは両面に収録されていたため、CDへと移行しても名残でしばらくそう呼ばれていた)

 

諸説あるけれど多くは新曲の中でレコード会社が特に打ち出したいメイン曲を<A面>、サブ的な1曲が<B面>という扱いが長らく続いていた。
(今はそれぞれタイトル曲・カップリング曲と呼ばれている)

 

そうやってA/Bと打ち出しているのにも関わらず、時にはB面の方が人気が出たり、コアなファンからAとBを逆にするべきだなんていう声も上がったりしていて、まあそんな風に“面”を意識した時代があったのである。

さて、街にも大勢の人(特にその街に住んでいない人など)がなんとなく思っている、もしくは街の偉いさんがこうであってほしいと掲げる<A面>と、実際に住んでいる人のそれぞれの暮らしが自由気ままに街に個性を与えている<B面>があると考えてみた。もちろん今風にタイトルとカップリングに置き換えてみてもいい。そのどちらもがあって”街”は成り立つ。

 

URBAN TUBEでは今後も<街>を中心にあれこれ探っていきたいと思っているけれど、ただ<旅>しただけでは旅人として見ることができるのは圧倒的にA面である。
でも運が良かったり掘り下げていけばB面にぶち当たることができる。この場合<B面>はおまけでも裏面でもなく、<Aに連なるB><Aを構成するB>とでもいうべきか。

 

URBAN TUBEでは常にA面を突き抜けたB面にたどり着きたい。
今年もそんな感じで行く所存であります。

 

と、年明け1発目の記事なので決意表明を。

変わり者の中に、一人だけニュートラルを貫く心臓の強い街なのかもしれないぞ

さて、話を今回のテーマ<荻窪>に戻そう。

 

地方出身の若者に聞いたところ「東京に来るまで知らない街でした」と多くの人が言っていたので先に軽く説明する。

 

東京の杉並区にあり、中央線・総武線、東西線、丸ノ内線という都心の何処へでもいきやすい交通網をもつ。近郊の駅は阿佐ヶ谷、高円寺、高田馬場、中野など、と聞けばだいたいの位置はわかるだろうか。

なんでもないけれどなんでもある。ざっくりとした印象はそんな感じだ。
荻窪駅はまあまあでかい駅だし、まあまあ大きな街である。

 

働くというよりは「住む」に比重がある街であると大抵そうだが、駅前はドラッグストアやパチンコなどチェーン店が幅を利かせ、それでもその隙間に昔からあるような古びた店が街の顔として踏ん張っている。

荻窪の北口を出ると、大きな駅ビルと、大通りに沿ってぎっしりと店が並び、それはなかなかなごちゃごちゃ具合だ。

 

信号が青になるのを待つ人たちの面々は自転車にぶらりとまたがる若者がいたり、おばあちゃんがカートを握りしめていたり、スリングで赤ちゃんを抱っこしながら買い物袋の大きいのを2つぶら下げているママがいたり。

 

急いで横断歩道を渡るにはなかなかハードルが高い。
カートを引くおばあちゃんを引っかけないように上手に避けながら足を早めるしかない。

夜はドラッグストアや駅ビルの光が明るく、「たくさんの人がここにいる」という妙な安心感もある。

時間があるときは少し離れた歩道橋を渡りながら、上からそんなごちゃごちゃした「おもて面」を眺めるのも楽しい。

 

<今現在>の荻窪の魅力を考えた時に、悪口ではなく心の底からいい意味で「普通の街」だと思う

 

荻窪を通る<中央線沿い>は、東京の中でも少し独特な呼気を持つと言われるエリアだ。

 

例えば中野、高円寺、阿佐ヶ谷、吉祥寺。この辺りは全国にも名が知れた街だから特に説明はいらないかも知れない。街それぞれにカルチャーという独特な毒を交え、未だ若者を捕らえて離さない街々だ。おしゃれ感もある。なんとなくだが<A面><B面>の力関係は等しくて、住む人・働く人の個性が街のイメージそのままにつながる、いうなれば<両A面>の街。

 

しかし荻窪。ここだけは独特な中央線沿いにあって、いたって普通の街なのだ。

街の歴史を紐解けば、昔から愛される中古レコード屋があったり、かつては別荘地だったり、文豪が数多く住んでいた街だったりするんだけれど、とりあえず今の荻窪の<A面>は普通に便利で住み良い街、が一番しっくりくる。

 

しかし学校に例えると、変わり者ばかりいるクラス(中央線)の中に、一人だけ真面目な人間が混じってなおかつ仲良くやっているようなものである。ある意味そんな「心臓の強い」人間のように、<普通>であり続ける魅力がなんかあるのではないか。

 

そう思った矢先にひょっこり出会った若者がいる。
彼を追いかけてみれば<荻窪のA面を構成するB面>を知ることができるのじゃないか。そう思って何日間か密着してみた。

「居心地の良い場所を探していたら、いつのまにか荻窪にいた」

そう呟く彼の名はアダチ。

 

正式名称はアダチサマーソニックという。
職業:バンド「ペドラザ」ボーカル。つまりミュージシャン。1Kアパートで一人暮らし。

「荻窪の住人」であり「荻窪でバイト経験あり」であり、そして「自分らしいカルチャーを持つ若者」として、今回はしばし彼の目線で荻窪を歩いて見ることにした。

Profile

ペドラザ

https://twitter.com/pedraza_band

 

アダチサマーソニック(Gt / Vo)、ぬちんちん(Dr)、シホちゃん(Ba)、吉水アンリ(Gt)というユニークな名前のメンバーとともに主に都内を中心にライブハウスなどで活動中。

 

2016年度ディスクユニオン主催のオーディション<DIVE INTO MUSIC.オーディション2016>に勝ち抜く。合格者はCDなどのリリースが約束され、現在アルバム「アイホープ アイシンク アイノウ」を配信中。

 

バンド名の由来は福岡ダイエーホークスの守護神ロドニー・ペドラザ

Profile

  • 松尾 彩Columnist

    フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。また猫についてゆるく語る「ネコテキ」を小学館「しごとなでしこ」にて連載中。

  • 木村 巧Photographer

    1993年茨城県生まれ。在学中より、写真家青山裕企氏に師事。大学卒業と同時に独立。雑誌・書籍・テレビなど幅広いメディアでライブ写真が掲載される。グループ展やTOKYO ART BOOK FAIRなどで作品を発表している。春からURT編集部へ。