2019.02
特集 森と未来をぐるりとつなぐ 下川町

せーの! で世界をぐるりとつなごう

町の約9割は森林、夏は30度冬はマイナス30度にもなり、さらに人口は3,300人ほど。だけどその町を目指す移住者は多く、町は暖かな仕組みに包まれていた。SDGsへの取り組みで今注目されている北海道「下川町」でその優しい世界に触れてみた。

2.6, 2019

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大きな森の中に住んでいたはずの人間は、いつしか森を出て、新しくてピカピカしている建物や、機械などとの暮らしを手に入れました。森の中は不便だからと森を壊しながら。

 

だけどそんな暮らしをしていたら、食の恵みを、家を建てる素材を、機械を動かすための石油やガスをどんどん消費してしまっていました。

 

今も変わらないように生活できているように見えるけれど、そういった大事なものの貯金は残りわずかになってしまっています。

 

便利を知ってしまった人たちから、その便利を取り上げることはできない。
それでも今ある資源を、これから生まれる資源を無駄なく活用しないといけない時がきています。

2015年、国連加盟国の間で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」というものが採択されました。環境問題に興味がある人や、大きな会社の間などではすでに広がっている「SDGs(エス・ディ・ジーズ)」です。

法的拘束力はないけれど、皆が薄々気がつき始めている「このままの生活じゃ、ダメかもしれない」からの「だから持続可能な世界をつくろう」を17項目の具体的な目標、指標を元に2030年までに実現(ゴール)させていこうという活動です。

その項目は<貧困をなくそう>や<安全な水とトイレを世界中に>などの世界規模のものから<ジェンダー平等を実現しよう><つくる責任・つかう責任>など個人でも実現可能なものも。

この取り組みがあっという間に世界中に広まったのはわかりやすさと取り組みやすさにあります。

上で挙げたように<国>と言う大きな枠組みだけでなく<個人や企業>などより小さな枠組みでもそれぞれの立場で、その立場に合わせて目標を決められるということ。

例えば<貧困をなくそう>であれば、国の税金を使ったシステムの改善(支援なども含む)から、個人活動での「子ども食堂」までアプローチは様々。

そして便利な世界を一方的に手放したり取り上げたりするのではなく、経済成長とともにできる限りのモノコトを「持続可能」にチェンジしていく。ようやく世界は大きく動き始めています。

そして日本の中で、もうすでにSDGsの理念に基づいた仕組みを練り上げ、持続可能な未来を目指している街があります。

下川町がつなぐ、未来

北海道の旭川空港から数時間北上したところに、その未来都市「下川町」があります。

<町を、人を、資源をぐるりとつなぐ>取り組みをこの目で見たくて、真っ白な雪に覆われた下川町を訪ねました。

この町の歴史は比較的新しくて、最初の入植者は1901年だったそうです。豊かな森や鉱物資源があり人口は最大で15,000人を越すことも。けれど林業の衰退や鉱業の衰退で人口は下降線をたどり、現在は約3,300人ほど。一時期は「日本人口減少率4位、北海道内では1位」なんて時も。

ちなみに下川町の大きさは東京23区と同じくらいでその約9割が森林。

 

東京23区内に3,300人しか住んでいない。そんな風に想像すると下川町のひろーい感じがわかりやすいかしら?

 

さて、そんな小さな町ですが、その取り組みは2017年の第1回ジャパンSDGsアワードで内閣総理大臣賞を受賞したほど評価されています。小さな町でどうやって「SDGs」を実践しているのでしょうか。

 

ちなみに下川町は今までも環境未来都市として再生可能エネルギーによって熱エネルギーの自給率をあげていました。

 

そしてさらに「SDGs未来都市」として持続可能な地域社会の実現に向けてさらなる取り組みをしています。

 

一つは森林資源を余すことなく活用し持続可能なまちをつくること

一つはこの実現のため「会社や国、役所だけでなく住み人みんな」でまちをつくるこ

 

そしてもう一つが広い世界と繋がること、繋ぐこと。

バイオマス熱供給システムを使用して集合住宅や学校などの施設に熱を供給する。

循環型森林経営と再生可能エネルギー

下川町は豊かな森に囲まれています。また木材用に木を切っても森が絶えることがないように、約60年周期で計画的に切り倒し、また植林しているんだそう。
切り倒された木は、木材として、そして使い切れない未利用の残材などはチップにされエネルギー資源へと変わります。

町の人が自発的に始めた万里の長城。スタートは畑から出てきた大きな石。これをみんなですこしずつ積み上げて現在2,000mの長さに。

みんなで町を作る、考える

下川町は人口減少の際に「地域の人」の動きが大きかったんだそうです。
町おこしの方法を考えたり、中には土地の雰囲気が似ている北欧の文献を探した人もいたそう。下川町が発祥で今は北海道など寒さの厳しい地域に広まっている「アイスキャンドル」作りや、自分たちで「万里の長城」を作ってみたりも。森だけでなく、商売だけでなく、そこに”自分たち”と言う社会の仕組みを盛り込んでより総合的な解決を目指しているそう。

別回でご紹介する移住家族・若園家。若い世代の移住者が増えています。

広い世界と繋がる・繋ぐこと

実は今回下川町にいこうと思った最初のきっかけはSDGsではなく、「移住者の多い町」という噂を聞いたことから始まります。

北海道の、それもより寒さの厳しい土地に、若い世代の移住が多い。それがとても気になっていました。

そして下川町では移住者を通して彼らの持つ才能ややりたいこと、アイデアを元に新しい活動や名産品を生み出すことに成功しています(別の回で紹介予定)。
そうやって資源保護だけでなく「人」の可能性、他の世界とのつながりも大切にしています。

誰も取り残されないためにできること

さてさて、こういったお話は下川町SDGs推進戦略室の蓑島 豪さん(写真左)と下川町商工振興課の遠藤 龍信さん(写真右)にお聞きしました(ちなみにお二人の名刺はなんと木製!木の香りがとってもいい名刺でした。木の種類は自分で選べるそうです)。

たくさん取り組みについてお聞きしたのですが中でも印象に残っているのが「誰も取り残されない」へのこだわり。

 

SDGsでは目標とするゴールの中に「誰も取り残さない」というのがあります。でも実際に少子高齢化、人口も少ない下川町の中で住民の皆さんは「<取り残さない>という少し上から目線の言葉ではなく<取り残されない>と言う言葉にこだわったそう。

 

外から人々を取り残さないように守る一方通行のものではなく、内からも取り残されない仕組みをともに考える。
確かに言葉は近いですがニュアンスは大きく違います。

テレビ電話。画面には地域のお知らせなども表示される。

ちなみに取材で個人宅や施設などいろいろな場所に伺ったのですが、どの家庭にも「テレビ電話」があることに気がつきました。
テレビ電話としての役割だけでなく(ちなみに通話料無料!)、役所からのお知らせなどが画面に表示されるというもの。

 

「下川町では街全体に光ファイバーを引いたんです。そしてテレビ電話を設置して各家庭と連絡が取れるようにしました。最初はお年寄りは使うのが難しいかなと思っていましたが、むしろ使いこなしていますよ」

 

冬になるとマイナス30度になることもある下川町では、外出もままならないほどの大雪の日も珍しくありません。そんな日に自宅で連絡を取り合ったり、そういった天候のお知らせや地域の催し物を伝えたり、また今高齢者の多い町で問題となっている孤立化への回避にもテレビ電話は役に立ちます。他にもバイオマス熱供給システムで街全体に熱を供給したり(この話は次回、詳しくお伝えします)街全体を包み込むような仕組みもたくさんありました。

下川町では比較的歴史が新しい町である事、様々なアイデアを持つ住人がいるということで、町内でのそれぞれの取り組みも活発なんだとか。

 

「例えば子供から大人まで参加した下川町の未来を考えるワークショップを行ったこともあります。8グループに分かれて(SDGsの17のゴール目標のうち)3つのゴールを選ぶということをしたのですが、共通で選んだのは11番の「住み続けられるまちづくりを」を選び、他多くのグループが「すべての人に健康と福祉を(3)」と「陸の豊かさを守ろう(15)」を選んだんです。子供達が「陸の豊かさを守ろう(15)」を選んでくれたのは(森が豊かな)下川町らしいな、と思いました。

下川町の2030年ビジョンを住民の皆さんが中心となり作ったのですが、17のゴールから下川町の持続可能性を検証しました。例えば16番の平和。ややすると自分達が取組むことではないと思われがちですが、せっかくの機会だから考えてみようとか、色々な気づきや発見がありました。

SDGsでは「ゴール」が設定されています。だからそこから見落としがないか、課題は何かを考えるチェックリストのように活用しています。

他にも例えば“女子会”が発足し、子育て問題やファミリーサポートに取り組んだり。
そうやって下川町では様々なことを住民が0からスタートさせているのが大きな特徴です。役場はそれを補助したりお手伝いしたり。

また下川町の取り組みに賛同してくれる企業などとのパートナーシップも盛んです。いろいろな地方に人を送り出すというユニークな取り組みをしているユニリーバ・ジャパン(株)とは、社員が来町し地域事業者のお手伝いをして貰うと同時に企業成長の相談にのって貰ったり、吉本興業ともSDGs推進のための提携をしたり。他にも他県や他市とも連携体制を形成しつつあります」

このパートナーシップもSDGsの目標のうちの一つ(17:パートナーシップで目標を達成しよう)。個人や一つの市町村、国だけでは実現しないことは手を取り合って。またお互いの得手不得手を上手に埋めあったり。それは遠からず目標8の「働きがいも経済成長も」にもつながります。

下川町はスキーも盛ん。あのレジェンド葛西選手など多くの選手を輩出しています。

下川町は「コンパクトな町」であることや豊かな森林を生かし、そしてそれを広い世界につなぐことでSDGsのゴールを目指していました。

そう聞くと気になるのは、資源の少ない大都市では何ができるか?
SDGsにはゴールはあるけれどそこへ至る道はそれぞれのやり方でOK、だから大都市なら大都市ならではの取り組みをすればいいのです。

 

ちなみに2020年の東京オリンピックにもこのSDGsは採択されています。
全会場で再生可能エネルギーを使用予定だったり、物品を可能な限りリースやレンタルを活用する予定だったり。

またURBAN RESEARCHでも、「Green Down Project」と言う羽毛製品の回収とリサイクルされた羽毛での商品企画に積極的に取り組み、SDGsへのアプローチを行っています。

 

大事なことは、このSDGsは「目標」で終わってはいけない「あくまでもゴール」を目指すもの。

 

今からそれぞれの意識をそこへ向かわせるには、本当に身近なことからのスタートでいいのです。様々なものをリサイクルしてみることはもちろん、もっと簡単なトイレのペーパータオルを使わず、自分のハンカチで拭く(紙資源の節約)、食べきれる食材を買う(廃棄量減少)、運動をする(医療費の節約)なんていうのは誰にでもできるゴールへの道。

 

正直、その名前を知ってはいたけれどなかなか内容が頭に入ってこなかったSDGsですが、下川町での取り組みを目の当たりにするとすごく難しいことではなく、かつまた新しい世界への広がりのチャンスすらあることだということがよくわかりました。

 

ひとつだけ不満があるとすれば、「SDGs(エス・ディ・ジーズ)」と言う単語にぴったりくる日本語のキャッチフレーズ的なものがまだ作られていないこと。

 

ちなみに直訳すれば<持続可能な開発目標>なのですが、それだとちょっと堅いし、堅苦しいとそれだけで「自分にはきっと関係ないや」と脱落してしまう人も出てきてしまいます。

 

やはり日本で、幅広くこの言葉を伝えるには何かわかりやすい訳語があればいいなあと思います。

 

もちろん取り組んでいる企業や人々はそれぞれが、できるだけわかりやすい言葉で伝えようとしています。だから、もしも<アーバンチューブ的にわかりやすく伝えるなら>なんだろうと考えました。アーバンチューブの理念「世界中をぐるりとつなぐ」を少しアレンジするならば…

せーの!でぐるりとつながる世界

でしょうか。

 

せーの(S) で(D) “ぐるりと” つなが(G)る (もしくはゴ(G)ールする) 世界(S)

 

ものすごい語呂合わせではありますが、みんなで力を合わせて“せーの”と始めなければゴールは遠くなるばかり。

 

今あるものをぐるぐるっと回す、そして一人ではなく、ぐるっと身近なことや遠くの人々ともつながることができれば世界は変わる。
そんな気持ちを込めて。

次回は実際の下川町の取り組みがぎゅっと詰まった素敵な建物を紹介します!

 

 

Green Down Project とは?

実は世界の羽毛供給量は減少を続けているのをご存知ですか?
ですが羽毛は洗浄、精製加工することで新毛よりもきれいな「再生羽毛」として生まれ変わります。羽毛に関わる企業や団体をはじめ、一般企業・団体、地域社会、そして生活者一人ひとりの理解と協力で作るリサイクル羽毛流通システムを作る。それが、Green Down Projectです。

 

株式会社アーバンリサーチはGreen Down Projectの一員として羽毛製品の回収とリサイクルされた羽毛での商品企画に積極的に取り組んでおります。

 

Profile

  • 松尾 彩Columnist

    フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。小学館kufuraにて旅エッセイ「ドアを開けたら、旅が始まる」連載中

  • 木村 巧Photographer

    1993年茨城県生まれ。在学中より、写真家青山裕企氏に師事。春からURT編集部へ。