2019.07
特集 アオハルの迷宮、下北沢へ。

下北沢ダイアリー #03 夢眠書店

下町の素朴さとあたたかさを残しつつ、カルチャーが生まれる場所として親しまれている下北沢に新しくできた『夢眠書店』。運営する人気アイドルグループ・でんぱ組.incの元メンバー・夢眠ねむさんと、料理人で実姉のmaaさんに話を聞いた。

7.31, 2019

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人気アイドルグループ・でんぱ組.incのメンバー・夢眠ねむちゃんがグループを卒業、また芸能界を引退すると聞いて驚いた人は多いと思う。
その後は自身のキャラクター「たぬきゅん」のプロデュースと、本屋さんになるために活動。
そしてつい先日、誕生日である7月14日に実店舗『夢眠書店』を下北沢にオープンさせた。
新しい道がなぜ本屋だったのか、選んだ場所がなぜ下北沢だったのか。
ねむちゃんと、ともに営む実姉で料理人のmaaさんに話を伺った。

maa「気付いたころには〝食〟に興味があって。フランスへの憧れも募り、〝自分にできるのは料理だし、料理を勉強したらフランスに行けるんじゃないかな〟っていう思いでフランスへ留学しました。もともとおいしいものが好きで、実家も海産物の問屋なので、姉妹で食いしん坊なんですね。家で出るのは和食中心だから、母親にとってはフランス料理がとても特別だったんです。だからわたしがフランス料理を作れたら、お母さんも喜ぶんじゃないかなっていう動機もありました」

 

maa「好きで学びに行ったけど、やっぱり厳しい世界でした。帰ってきて神戸のフランス料理屋に就職をして3年、地元に戻ってホテルで3年。学生時代含め7〜8年フランス料理をやってきたけれど、特にフランス料理屋をやりたいわけではないなって思ったんですよね。飲み屋が好きだし(笑)。日本人にとってフランス料理は特別だし、日常じゃないじゃないですか。日々の食卓には出ない。自分が作って食べていくにはって考えたときに、乾物やお出汁などの実家の味に戻ったんですよ。一番好きな食べ物がうどんなので、母がブレンドした出汁で作ったおいしいうどんを、みんなにも食べてもらいたいと思って。それからイベントとかでも出汁を使った料理を出展するようになりました。自分のルーツに戻った感じですね」

maa「その当時、地元で店を開こうかと思っていたけれど、フランス料理屋とホテルでしか働いたことがなかったから、カフェとかバーとか、もっとカジュアルな店でも働いてみたいと思って。30歳手前だったけど〝一年だけ〟と思って、一念発起して東京に出てきたんです。元々勤めていたフランス料理屋の会社の東京の店舗で働いていたら、すごく勢いのある会社で。新店舗の立ち上げに携わっていたらいつのまにか時間が経ってしまっていた。最初はすぐに地元に帰るつもりだったんですが、気付いたら10年以上経っていました」

maa「東京へ出てきていろんな店舗を経験したんですが、このまま大きい会社にいてもずっと忙しいままかもしれないと思って、思い切って長く勤めた会社を辞めたんです。ちょうどそのころに妹と料理番組に出演させてもらったりして、一年くらいはゆっくり過ごしていました。そろそろ働きたくなってきたところでビアパブのオープニングスタッフとして2年働いてから、結婚出産。妹とはずっと一緒に店をやりたいねという話はしていたけど、アイドルをやっていたし、わたしも忙しかったから、すごい先の話だと思っていたのに、突然引退して本屋をやるっていうからびっくりして(笑)。〝お姉ちゃんも何か一緒にやろう〟って言ってくれて、夢眠書店で軽食を出すことになりました」

ねむ「わたしは、もともとアイドルになろうと思っていたわけではないんです。美術が好きで勉強をしていて、現代美術系のメディアアートの学科に通っていたんですが、パフォーマンスアートは何のためにあるんだろう?って行き詰まっていて。やりたい美術の意味みたいなことを追求していたときに、挫折しそうになったんです。そのときにふと受験時代に行ったメイド喫茶を思い出して。当時流行ってたんですよね。それでもう一度メイド喫茶に行ってみたら、説明書きがないインタラクティブなアートだなって感じたんです。それでメイドとオタクの関係性の研究をしようと思って、メイドになりました。そうしたらだんだん学校よりそっちのほうが楽しくなっちゃって(笑)。でもバイトは半年くらいで辞めるんですが、そのあと作品を作ったりしつつ、ほかのバイトをしたら、その雰囲気が抜けきっていなくて〝アキバっぽい〟とかすごく言われて。それならわたしも、昔のメイド仲間が何人も働きだしておもしろい店だと噂の『ディアステージ』で働こうと思って。そこは歌を歌うライブバーでアニソン歌手志望の子が多いんですけど、ずっと音痴だって言われていたから、キッチン希望で出したんですね。そしたら〝来週から歌ってね〟って(笑)。働いていく中で、もふくちゃん(福嶋麻衣子)に〝アイドルにならないか〟って声をかけられて。興味はなかったけどせっかくならやりますって答えたら、〝じゃあ10キロ痩せてね〟って言われて。泣きました(笑)。そのあとオーディションを受けて合格し、でんぱ組.incになったんですよね」

ねむ「でも、はじめは一曲で終わるユニットだと思っていたんです。全員がソロになりたかったし、私は当時多摩美在学中で美術家になりたかったから、いい思い出だなっていう気持ちでやっていました。そしたらどうやら続くっぽいぞと。ちょうどそのとき単位が2単位足りなくて、大学を辞めようか悩んでいたけれど、先生にももふくちゃんにもみんなに止められて。とにかく踏んばって卒業しようと決めて、就職先をでんぱ組.incということにして、本業をアイドルにしたんです。やるからには本物にならないと説得力がないから、本気でアイドルをやりました。卒業制作を『夢眠ねむ』って名前で出していたんですけど、10年経って、武道館の卒業公演で、やっと卒業制作が完成できたっていう気持ちです。長かった〜」

ねむ「当時、アキバでバイトしてるってお姉ちゃんに言ったら、すごい心配されて。それはそうだと思うんです。ネガティブなことを社会で言われていたし、メディアのオタク批判みたいなことも多かった。それが活動していた当時許せなくて。オタクの地位をあげるために何かできることはないか、わたしはメディアアートを勉強していたから、メディアを使って環境を作るっていうことにずっと興味があって。それでお姉ちゃんにも一度、ライブを観にきてもらったんです」

ねむ「年齢が離れているし、お姉ちゃんにはお姉ちゃんの世界があるからクロスすることがなかったけど、ライブを観てもらったら、それからお姉ちゃんがすごく応援してくれるようになったんです」

 

maa「びっくりしちゃって。最初は話だけ聞いていて、メイドさんをやっていてアイドルになるとか、意味がわからなくて。でもライブを観たら感動しちゃって。その瞬間に、〝わたし、応援します!〟って宣言しました」

 

ねむ「姉が応援し始めてくれて、より頑張れるようになりました。家族が応援してくれると自信を持ってできるというのもあるし、時代もでんぱ組.incに合い出して、いろんな相乗効果でちゃんと売れていた気がします。オタクの地位も向上したし、オタクじゃない人も理解してくれるようになった。みんなでそういう雰囲気を作ることができたので、いい10年を過ごせたなと思っています」

 

そしていよいよ、本屋開店へ向けて動き出す。

ねむ「本屋さんになりたいっていうのも、アイドルになりたいわけじゃなかったのと一緒で、次にやるなら本屋かなと漠然と思っていただけなんです。アイドルも探してたわけじゃなくて、表現について研究してたらそこにいきついてなった。『ほんのひきだし』というWEBサイトで3年くらい『夢眠書店開店日記』という連載をしていたんですが、校閲さんや編集部、営業さんなど本にまつわる人たちに取材にいきました。本屋になろうとは思ってないけど、本が好きだし、どこかの書店の一角とかでポップアップとかいつかできるといいよねっていう感じで最初は始まったんですが、その取材をしていくなかで、アイドルになったときと同じ感覚があって。アイドルのときもメイドさんを見にいって衝撃を受けて、わたしにはこれが必要だと感じた。なによりオタクに感動したんです。周りにいる人たちが、美術でいったら昔ながらのパトロンの気質で、自分の認めた文化に惜しみなく熱量を注いでいる人たちがいる。本はどんどん売れなくなって、でも今、本を売りたい人はたくさんいて。アイドルを育てたいと思うオタクに通じる感覚を覚えたんです。わたしは次、ここのことをやるかもなって思ったんですよね。『本屋大賞』を見にいったときにも、絶版になった本を店員さんが涙ながらに〝おもしろくていい本なんです!〟って語っているのを見て驚いて。自分ではない、周りの好きなことに対してそそぐ情熱にすごく感銘を受けました。わたしも微力ながら助けのようなことをできたらいいなと思ったら、出版の人たちがすごく喜んでくれて。わたしは本屋さんに行くことが楽しかったし、小さいころに本を読むことで褒められたことがうれしかったから、今でも本をたくさん読むんです。ということは、小さいころに本を読まないと、そういう感覚を身につけるには手遅れかもしれないって思ったんですよね。本屋をやります、と言うと、よくも悪くもお手並み拝見のような感じで見られてしまって、DJみたいにどんな音楽をかけるのかに着目される。選書が特化してる本屋ばかりだと、本がもともと好きな人じゃないと買わなくって。選書が優れた本屋には、その場所の良さをすでにわかっている人しか行かないんですよ。それも素晴らしいけれど、わたしは新しく本好きを育てる場所を作りたいと思っているんです。昔から本に馴染みがあればあるほど、本に対する恐怖心はなくなると思う。本が嫌いな人は昔から勉強だと思ってるから、本に対して強制的な印象なんですよね。本屋さん行くこと自体がポップで楽しければ、もっと本に触れてくれる人が増えるんじゃないか。連載をしていた3年間で自分が本屋をやるならどうするか、すごく考えて、出した答えがそれだったんです」

 

そうして生まれた『夢眠書店』は、昔ながらの雰囲気を残したままリノベーションを施した古民家の一階。
下北沢とは思えないほど、自然に囲まれた気持ちのいい場所だ。
小説や絵本、図鑑やレシピ本など、さまざまなジャンルが並ぶ。

ねむ「ちょうど姉が子どもを生んで、いろんなところで遊びづらいということを聞いていたんです。周りのママさんからも、どんどん居場所がなくなってしまってるって。本屋に行っても、子どもが泣いたりしていると〝うるさくしてごめんなさい〟って謝らなくちゃいけない。授乳もすっとできて、小さい子が食べてもいいものがあって、泣いたり怒ったりしててもみんなが笑顔で見守ってくれる場所がもっとあったらいいのに。わたしだけだと説得力がないけど、姉や周りのママの友達に何があったらうれしいかを聞いて、過保護に構えすぎず、居心地のいい空間を作る努力をしています」

maa「以前夫が下北沢で『SAWANO HOUSE』という飲み屋をやっていたんです。それに合わせて近くに引っ越しもしました。昔から憧れの場所ではあったけど、近くに住むまではあまりなじみがなくて。ただ、夫がライブをやったり、友達が増えたりして、すごく居心地がいい場所だからどんどん好きになっていきました。『SAWANO HOUSE』は間借だったので、下北で出店できる新しい物件をずっと探してたいたんです。そしてこの場所を見つけて。すごくいいけど、今よりだいぶ広いから現実的じゃないかなと思っていたときに、ねむちゃんが本屋をやるにあたってちょうど物件を探してると! すごくタイミングよくこの場所に決めることができました」

 

ねむ「大家さんにとっても大事な家だから審査も厳しかったけど、コンセプトをすごく気に入ってくれて。ご近所付き合いもある場所だし、いい人ばかり来てくれるのでうれしいです」

 

maa「都会でこの雰囲気はなかなかないと思います。ちょっと特別感があって、ワープした感覚になれる。物件もここしか見てなかったし(笑)、運命的でした。これから、ちょっとひといきつける場所を作っていきたいですね」

 

maaさんが料理人として東京へ出てきたことも、ねむちゃんがアイドルから本屋へ転身したのも、この場所が下北沢で見つかったことも、すべてが運命的と思えるほどのタイミング。
そう伝えると「うちの一家、運だけで生きてるっている言い伝えもあります」と笑って答えるねむちゃん。
あながち迷信でもないなって、夢眠書店でクリームソーダを飲みながら思うのでした。

Profile

  • 松本 昇子エディター / ライター

    愛知県出身。雑誌やカタログ、書籍、WEBサイトなどの編集、執筆、ときどきコピーライティングも手がける。

  • 木村 巧Photographer

    1993年茨城県生まれ。在学中より、写真家青山裕企氏に師事。春からURT編集部へ。

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