2019.05
特集 A BEAUTIFUL LIFE 巣鴨

なんかもう忘れないっす。

猫を見に墓地へ。その日、空は晴れていて、素敵な二人に僕は出会った。

5.29, 2019

  • essay
  • lifestyle
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これから書くことはもしかしたら、巣鴨という街そのものとは関係がないかもしれない。
だだ「巣鴨」という街で出会ったことは確かで、あの時間あの場所に僕が巣鴨にいなかったら、決して起こらなかったと言える。

 

ごく個人的な理由かもしれないが絶対に書かなくてはならないと思い、編集部の方にお願いしてこの特集を書かせてもらっている。これも巣鴨が結んでくれた縁なのだろうか。とかいって。

 

「巣鴨に住んでいる人々」というテーマで、カメラマンと二人で取材をしていた訳なのだが、一向に捗らなかった。というのも、話しかけども話しかけども怪しまれてばかりで、インタビューにならないのだ。昼の1時の段階で、僕はこの特集はお蔵入りだと半ば確信していて、カメラマンとの間に停滞ムードが漂っていた。

墓地へ猫を見に

少し休もうと思い、商店街の真ん中あたりにあるベンチに腰をかけた。どこからか視線を感じふと顔を上げると、目の前に一人のおばあちゃんがいた。彼女は僕をジッと見つめ、ニコッとして話しかけてくれた。

 

「何しに来たの?」
「巣鴨を取材しに来ました。」
「あぁ、そう。」

 

またニコッとした。優しい雰囲気を持ちながら、向けられた眼差しは真っ直ぐだったことを今でも覚えている。

 

「今日は巣鴨で何をしていたんですか?」
「来ただけ。これから墓地に行って猫を見に行くの。」

 

昼の13時に猫を見に墓地に行くだなんて洒落ている感じがして、一緒に付いていってもいいかお願いをすると、彼女は快く了承してくれた。とげぬき地蔵尊高岩寺で待ち合わせをしている男性がいるらしく、そこで合流してから四人で墓地へ向かうことになった。

 

「結婚願望ある??」

 

お寺に向かっている最中、いきなり質問をしてきた。

 

「あります。」
「あぁ、そう。」

 

笑顔が素敵で愛嬌があって、でもその奥にブレない芯のようなものを感じて、この人と出会えて良かったとその時に思った。自分が芸人を目指していることや、好きな人がいること、色々な話をした。

空がめちゃくちゃに晴れている

とげぬき地蔵尊高岩寺に着くと、中々待ち合わせをしているという男性が見つからない。境内は物凄い人の数で溢れかえっており、待ち合わせ場所としては最悪だなと思った。電話をしてみたらどうかと聞くと、持っていないという。僕が携帯を持たず人と待ち合わせをしたのは小学生の時が最後だったと思う。ものすごい強固な信頼関係があった上での約束にグッときた。5分くらい辺りをフラフラしていると、

 

「おうっ!!」

 

という声と共に一人の男性が現れた。ハンチング帽を被った、見るからに粋な男性。急いで、これまでの経緯を説明し、一緒に行動させてもらってもいいですかと聞くと、おう、別にいいよ、とあっさり受け入れてくれた。

 

墓地に向かっている途中、

 

「服装おしゃれですね。」
「俺流だよ!」

 

と返事が返ってきた。面白い人だ。続けて、

 

「洒落てなんかねえよ!他人と比較しても仕方ないじゃん。全部俺流だよな。」

 

お墓の手前で二人は急に足を止めた。

 

「メダカかなあ?」
「そうだな。白メダカは高いんだよ。少し値が張るんだ。」
「あらそうなの。」

 

ただそれだけ。ただそれだけのやり取りなのに、心が温かくなる。二人にとって当たり前のふとした会話が、その二人のこれまでの全てだったりする。今日はめちゃくちゃに晴れていて、時間がゆっくり流れている。僕が抱えている問題も何もかもがどうでも良くなる。本当に素晴らしいと思った。

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上空一万メートル

墓地に着くと、「猫がいないねえ。」と彼女が一言。ここは桜がとても有名なところであり、多くの人がお参りとは違った理由で集まる。人が多いと猫はどこかに隠れてしまうらしいのだ。

 

「こんな桜が綺麗なところに埋められたらいいですね。」
「死んじまったらどこへ埋められても同じだよ。」

 

だなんてニヒルなことをいうので、

 

「でも、お参りに来る人にとってはいいですよ。」
「そうだなぁ。」

 

と言って、彼はぼんやり桜を見上げていた。僕もつられて桜を見た。どうやらここは過去の偉人のお墓がたくさんあるらしく、彼はまるでツアーガイドさんのように、墓とそこで眠っている偉人の経歴を紹介してくれた。「紹介するよ。」と彼は一言も言わなかった。彼らと別れてから、少しでも取材として成立するよう気を遣ってもらっていたことに気がついた。洒落れた人である。

彼は僕にお墓を紹介しようとグングン進んでいくのに対し、おばあちゃんはゆっくりと歩いていた。後ろを振り向くと、カメラマンとおばあちゃんが二人で話しながら歩いていたので、僕は彼にくっ付いていくことにした。世間話の中で、最近は卓球をやっているという話題になった。

 

「卓球、楽しい?」
「まあまあだな。」
「生きていてどの時期が一番楽しかった?」
「そうだな、楽しいかどうか考え始めた時はもう楽しくなくなってた。だから俺は小学生の時が一番楽しかったよ。」

 

名言だ。本当にその通りだと思う。今が素晴らしいと自覚してしまうのは少し寂しさがある。

 

「ごめんな。後ろ遅くて。歩くの遅いんだよ。」
「いや、全然。」
「早く歩けねえんだよ。ホントしゃあねえよな。」

 

だなんて彼は言ってたけど、めちゃくちゃにそこに愛があったことを僕は知っている。

 

後ろの方でおばあちゃんと何を話していたのかと、取材後カメラマンに聞いた。彼女は空を見上げ飛行機雲を見て、

 

「上空1万メートルを飛ぶんだろ?どこに向かうのだろうね?」

 

と言ったという。なんとも詩的ではないか。また、おばあちゃんは供物のない墓が気になるらしく、管理されなくなった墓、つまりは生き仏になるくらいであれば、骨を海に撒いて欲しいとカメラマンに話していたらしい。その他にも色々聞いたが、中でも僕が一番痺れたのは、

 

「君は生きていくために何をしているの?彼はお笑い。」

 

というカメラマンへの質問だ。僕が忘れていたことかもしれない。二人ともつくづく素敵である。

愛おしい時間に猫がいて。

一時間以上に渡り数々の偉人のお墓を紹介してもらった。

 

「猫は??」

 

とおばあちゃんは言った。僕もすっかり忘れていた。そもそもの目的は猫だった。でも今日はいないようだった。

 

最後に芥川龍之介の墓に連れて行ってもらった。海外からお参りに来た方がいた。おっちゃんが「大したことねえ墓だよなあ~~」だなんて大きな声で言うもんだから、気まずくてすぐにその場を後にした。

 

帰り道、瓦礫の上を猫が二匹歩いていた。「猫だ~~。」って皆で言って、なんとも言い難い愛おしい時間が確かに流れていた。

必ずやまた。

お別れの時。

 

「今日は本当にありがとうございました。」
「いいよ、いいよ。」

 

とおっちゃん。

 

「完成したものは見れるの?」

 

おばあちゃんに聞かれて僕は困ってしまった。彼女達は携帯を持っていない。知り合いに携帯を使える人がいるというので、一生懸命説明すると、いいよ、いいよ、見れねえから。大丈夫だよ。いいから。いいから。とおっちゃんが横から入ってきた。

 

さっきもそうだった。ごめんな、歩くの遅くて、と。おっちゃんは遠くの方でゆっくり歩くおばあちゃんとカメラマンを振り返って、僕にそう言った。僕らが彼女を悪く思わないように、僕らも嫌な気をしないように、そんな気の遣い方をする人だった。

 

これはエゴかもしれないが、どうしても二人にこの記事を読んで欲しいと思った。この時僕は、紙媒体にこだわりを持とうと決めた。悔しかった。リュックの中に、「URBAN TUBE」の特集ページを印刷したものが入っていたので、そこに丁寧にこの記事を見る方法を書き、おっちゃんに渡した。おっちゃんはとても嬉しそうな顔をしていた。

その証拠に、お別れをしたあと振り返ると、遠くの方で渡した紙を二人でずっと見ているのが分かった。僕達の視線に気がついた二人は、いつまでも手を振っていてくれた。
彼女はスズキさん、彼はナカヤマさん。名前は最後に知った。

素晴らしい時間をありがとう。必ずまたどこかで。いや、巣鴨で。

Profile

  • 落合のダッチワイフハガキ職人

    「お笑い芸人になりたい」と思い、新卒2ヶ月で勤めていた銀行を退社。
    プールサイドというコンビ名で活動中。
    毎週日曜21時からインターネットラジオ「プールサイドの25Mラジオ」を生放送中。趣味はラジオ投稿。
    現在はコンビニでバイトをしながら。日々の生活を楽しんでいる。

  • 木村 巧Photographer

    1993年茨城県生まれ。在学中より、写真家青山裕企氏に師事。春からURT編集部へ。