2018.06
特集 墨田区に、すもう

すみたく、なる墨田区!

<街に住む>ことは、その<街に生きる>と言うこと。家の近くにいい喫茶店がある幸せも、公園でのんびりすることも、派手なカーディガンが似合うおばあちゃんたちの井戸端会議の横を通り過ぎることも、その全部が<街で生きる>ことの一部になる。

7.4, 2018

  • art&culture
  • lifestyle
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墨田区の最後の“アーバンチック”を探しに、「森下」というエリアに向かう。

 

相撲で有名な両国駅からもブルーボトルコーヒー第一号店でおなじみ清澄白河からも近い森下は、最近面白い飲み屋さんができたり(コラムで話題の活版印刷屋さんが営む居酒屋もあります)、老舗の居酒屋、おしゃれなカフェなども多く、なかなかに賑やかなエリア。第1話目に出ていただいた不動産屋さんもオススメのエリアだ。

 

ちなみに森下は、“半分墨田区で、半分江東区”という場所。

道を挟んで反対側は江東区というギリギリ墨田区エリアに、今年1月にオープンしたばかりの<喫茶ランドリー>はあった。

 

そして<喫茶ランドリー>は、その名の通り、喫茶店でもあるし、コインランドリーでもあるし、ミシンもあるし、近所のママさんが編み物会したり、ディスコになったり、時々DJがいたりする。

 

そんな場所なのである。

このユニークなお店を経営しているのは<グランドレベル>という会社。

ディレクター大西正紀さんから話を伺ったところ、このお店は二つのアイデアが合わさってできていた。

 

一つめは
グランドレベルに、もともと手袋を箱詰めする作業場だった築55年の建物をどうにかできないか、と相談が持ち込まれたこと。

たまたま大西さんの家にも近かったので、「そういえばこの辺りにはお茶を飲むところがない!」ということで最初はコンサルタントとしてカフェをブッキングしようとしたそうだ。でもなかなか誘致も難しく、だったら自分たちで作ろう!というのが始まり。

 

もう一つは
神田にあった事務所も引っ越す時に、お店の一角のテーブルをそのまま事務所にしてしまえ!というアイデア。

 

その二つが合わさって<喫茶ランドリー>が誕生した。

ちなみにお店の一番奥にある長テーブルが、今の「事務所」。

事務所ではあるけれど、もちろんそこに座りたいお客さんがいれば、そこは「席」になる。

「お店を始める、と言っても誰もカフェ経営の経験があったわけではなく、最初はコーヒーと紅茶などの3種類くらいのメニューしかなくて。始めて1ヶ月くらいは本当に慣れないことばっかりでした。毎日コーヒーを無料で配ったりしているうちに近所の人が来てくれるようになって、そのうち地元のママさんたちが手伝ってくれるようになったんです。現在もママさんたちが交代で働いてくれていますよ」。

 

ここがユニークなのは、「喫茶店」ではあるけれど、過ごし方はお客さんの自由だというところ。

喫茶だけでもいいし、洗濯しに来てもいいし、ミシンで何か作ってもいい。

 

つまり、使う人それぞれの、“リビング”のつづきであり、“書斎”のつづきであり、“近所の公民館”みたいなものにもなる。

 

ちなみにここは食べ物の持ち込み可。なんと宅配ピザを頼む勇者もいるそうだ!

一番奥のスペースに、「事務所」テーブルがある。

スペースの時間貸しもしているので、楽しいイベントも行われる。

家族での忘年会、近所のママさんたちの編み物会、ミシンを使った講習会、パン教室などなど。

「家でやるよりここでやる方が楽しい」。そんなアイデアがたくさん形になっている。

 

店内のテーブルや椅子を動かせばいろんなステージにもなる。

舞台を作って孫たちのために電子ピアノコンサートをしたり、「ディスコ」に早変わりしたことも。その時は家具を全部外に出して、ママと子供で踊りまくったそうだ。

DJイベント中には近所のおじいちゃんおばあちゃんが集まってきたので、昭和の名曲をかけてみたり。

「ちょっと反省しているのは焼肉会とライブかなぁ。焼肉は煙もすごいし、ライブはやっぱり音が響いてしまって」。

そんなこともありつつも、近隣の人から愛される場として街に溶け込んでいる。

もちろん「喫茶店」としても、とても居心地の良い店内。

URBAN TUBEスタッフの一人は、アイスコーヒーの「グラス」がすごく好きだ、と言った。少し背の高い、すっきりしたデザインなのにどっしりしたグラス。氷のカランコロンという音が綺麗に響いて、手に取るとしっくり馴染む。

「自分たちで始める時、“カフェ”ではなく“喫茶店”にしようというのがあったので、グラスやカップも“あくまでも喫茶店”らしいものを探しました」。

 

店内もいろんな形のテーブルや椅子があって面白い。実際に喫茶店から譲ってもらったものもあるんだそう。

その日の気分によって、椅子やテーブルが選べるのはちょっと嬉しい。

ふと店内を見渡すと、パソコンを真面目にいじるお兄さんは背筋が伸びるテーブル席に座っていたし、URBAN TUBEのスタッフは昔の喫茶店にあるような椅子でくつろいでいた。

 

人気は通称「モグラ席」。改装時に床をはがしたら半分地下に潜ったような空間が出てきて、それをそのまま半地下の席にしたそうだ。

「居心地が良すぎるのか、ここに3時間くらいいる人もいましたよ」。

モグラ席のソファーに座ってふと外を見ると、通り過ぎる人々の足元や向かいの建物の植物などが見えて、半地下ならではの光景が広がる。

いつもと違った目線で街を見るのもいいものだなあ。何時間でも座ってしまうのも無理はない。

 

ちなみにお店の名前にも、優しい理由がある。

「かっこいい名前にすると、(それが響かなかったり意味がわからなかったりして)どこかの層を弾いちゃうかもしれない。だからあえて“喫茶”で“ランドリー”という誰でも気軽にお茶が飲める場所っていうのがわかるようにしたんです」。

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    01.正面奥がモグラ席。

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    02.「家事室」にはランドリーとミシン、それにドラムセットが置いてあった。

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    03.ちなみにランドリーはコイン式ではなく、お店の人に料金を払って使用する。この一手間も楽しいコミュニケーション。

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    04.店内には様々な味のある小物が。

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    05.昔の喫茶店にあったようなレトロ椅子!

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    06.氷の音がすごく綺麗に響くグラス。

01.正面奥がモグラ席。 02.「家事室」にはランドリーとミシン、それにドラムセットが置いてあった。 03.ちなみにランドリーはコイン式ではなく、お店の人に料金を払って使用する。この一手間も楽しいコミュニケーション。 04.店内には様々な味のある小物が。 05.昔の喫茶店にあったようなレトロ椅子! 06.氷の音がすごく綺麗に響くグラス。
大西さんとモグラ席にて。

もしもマンションの1階に、素敵な喫茶店があったなら。

大西さんの働く<グランドレベル>では、“1階づくりは、まちづくり”をコンセプトにしているそうだ。

そのコンセプトのもと、様々な建物の1階や、道路、歩道、公共空間などのディレクション・コンサルタントを行っている。

「住宅街で1階にカフェや喫茶店がある建物って案外少ないんですよ」。

そう言われてみると、繁華街や駅ビルならいざ知らず、住宅街にあるマンションや集合住宅の1階にお店が入っているのをあまり見かけない。あっても大抵コンビニか歯医者さんのイメージ。

「ランドリーに来るお客さんは半分は地元だけど半分は違う場所からきてくれているんですよ。お客様も0歳からおばあちゃんまで。他の街にももっとこういう場があってもいいんじゃないかと思っています。喫茶店だけじゃなくて、1階が卓球場でもいいしね」。

もしも1階に喫茶ランドリーみたいなお店があればどうなるか。

よく“同じマンションの隣の部屋の人の顔も知らない”とか”家なんて寝に帰るだけ”なんて言う人がいるけれど、マンションの住民なら必ず1階に降りるし、お茶をしているうちに顔見知りにもなるだろう。美味しいお茶が飲めるなら、休日の楽しみも増える。

もちろん近所の人や、通りすがりの人にとっても<1階>のお店は見つけやすい。

 

それにどんなに素敵な場所があっても階段を上がったりエレベーターで上がらなければいけないと<みんなが>行ける場所ではなくなる。でも1階なら、誰でも入りやすい。

そう思うと<1階>は、つまりは公園と同じくらいの広がりとコミュニティの場になり得るってこと。

<喫茶ランドリー>もこの街のここに存在するだけで、近所の人たちが自然と集まる場所になった。今まで意識してなかったけれど、<1階の可能性>ってすごいなあと素直に思う。

商店街みたいに一箇所にお店がぎゅっと集まるのも便利だけれど、いろんなマンションの1階にいろんなお店があれば、街はぐっと魅力的になる。エントランスや駐車場ばかりの東京の住宅街の光景もパッと明るくなりそうだ。

 

帰り道、「もしもURBAN TUBE編集部がどこかに引越しするなら、ランドリーみたいな場所にしたいですね」。そんな話しをスタッフとしながら店を後にした。

アーバンチックな目線で見た墨田区は、
“同じ道を、歩幅の違う人たちと歩ける街”。

少子高齢化にかかわらず、子供やお年寄りなどに寄り添うことはとても大切なこと。

でもそれ“だけ”では<誰かに優しいだけだと、誰かが困る>ことになる。

 

優先順位の高い子供、お年寄りの困ったことは目に止まりやすくても、その間の世代の若者や働き盛りの人たちの困ったことは目に止まりにくい。もしくは「我慢」すべきものになりやすい。

でも大人になってもはしゃげる場所、いてもいい場所は必要だし、それぞれにそういう場所があるという安心感があれば他の人にも優しくする余裕が生まれる。

 

それに、子供にとっても「自分や両親以外」の年代の人がいることを知るのはとても大切なことだ。

 

おじいちゃんおばあちゃんは歩くのがゆっくりだ。

元気な大人は歩くのが自分より早い。

 

“この街に暮らすみんなの歩幅は、ちょっとづつ違う”

 

ほんのちょっとのことだけど、それを知ることはとても大事なこと。

 

そしてその歩幅の違う人たちをヒョイっと繋ぐのは、単純なことだ。「立ち止まって話すこと」と「立ち止まれる場所があること」。

 

例えば赤ちゃんが泣いて困る親に、「赤ちゃんは泣くのが仕事だものね」。

友達と大はしゃぎする高校生に、「そこ、溝があるから危ないよ」。

今日誰とも話してないなあなんて思って寄ったコンビニで、「雨降りそうだから気をつけて帰ってください」。

たったこれだけの言葉でも、人との繋がりを感じることが十分できる。

 

墨田区は人情の残る街、と言われるが実際に暮らしてみて本当にこういう「ひと言」が多いのを実感する。

 

時にお節介に思えることがあるけど、それでも知らないおばあちゃんに「あらそのカバン素敵ね」と言われたり、街の中華屋さんで並んでいたら「中華好きならあそこの店もオススメだよ」と別のお客さんに教えてもらったり。うちの近所のコンビニのおばちゃんは「新しい機械慣れないから、今日はちょっとレジ時間かかるわよ!」なんてマニュアル外の会話の方が多い。

そしてそういう一言が大げさではなく誰かの心を癒すこともある。

 

世の中にはいろんな人がいるから歩幅を揃えようとすると大変だし、揃える必要はあんまりなくて、ただ時々ゆっくり歩いたり、立ち止まれる場所があればそれで十分なのだ。

 

改めて墨田区という小さなエリアをぐるりと歩いてみたら、そういう場所がいっぱいあることに気づく。

坂道が少ないから誰でも歩きやすいし、<みんな>が集まれる公園もたくさん。

<喫茶ランドリー>や以前紹介した<ささやカフェ>のように、街の中に「みんなが集まれる1階」があったり、錦糸町のように、朝昼と夜で主役が交代できる街もある。後回しにされがちな若者にも優しいタトゥOKな銭湯だってあった。

 

<この街に住む>とよく言うけれど、それは言い換えれば<この街に生きる>と言うこと。美味しいものも、癒しの場も、遊びの場もあることは”生きる糧”になるし、人との温かい繋がりもある街は誰にとっても生きやすい場所になる。

さてさて今回の墨田区企画の始まりになった西側のカノジョ。

最後にどう思ったか。

 

「東日本大震災の時に、当時よく行っていたお店にみんなで集まったんです。怖かったけど一緒にいるだけでもすごく気持ち的に救われました。

そんな特別な事情でなくても「ここに行けば誰かに会える、一人でもふっと行ける場所」があるのはすごく心強い。普段は気づかなくてもふとした時にぐっと人の優しさに触れることができるっていうのをその時に実感したんです。

墨田区をあちこち歩いてみて、ここには昔からの歴史や建物もあって、若い人だけじゃなくおじいちゃん、おばあちゃん世代から子供までみんながちょっとづつお互いの生活や文化に踏み込みながら支え合ってる、助け合ってるっていうのを感じました。

 

うん、西側にすでに家を買ってなければこちら側に住むのも良かったなあ

 

と、オチとしては”西側のカノジョの墨田区誘致計画”は叶わなかったけど、カノジョの目を通して改めて墨田区の良さも感じることができた。

 

 

だからもし、ちょっと人とつながりたくなったり、今とは違う街に引っ越したいなあと思っている人には胸を張って言いたい。

 

墨田区に、すもうよ!

2話目で登場してくれた墨田区生まれの維十ちゃんも、きっとこの街を好きになってくれるはず!

Profile

  • 松尾 彩Columnist

    フリーランスのエディターとしてファッションからアウトドアまで幅広い雑誌・ムック・カタログなどで活動。現在はコラムニストとして主に旅紀行を執筆。また猫についてゆるく語る「ネコテキ」を小学館「しごとなでしこ」にて連載中。夫婦料理ユニット「サイトウのゴハン」レシピ担当。

  • 木村 巧Photographer

    1993年茨城県生まれ。在学中より、写真家青山裕企氏に師事。大学卒業と同時に独立。雑誌・書籍・テレビなど幅広いメディアでライブ写真が掲載される。グループ展やTOKYO ART BOOK FAIRなどで作品を発表している。春からURT編集部へ。

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